グループ紹介Group Introduction |
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グループリーダー
南本 敬史 Ph.D. |
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当研究グループは、ヒト同様に高度に発達した前頭葉を備えるニホンザルやマーモセットなど霊長類動物を対象に、脳神経回路のはたらきと脳疾患の病態の理解に取り組んでいます。神経科学や工学、心理学、医学、獣医学などさまざまなバックグラウンドをもつ研究者が集い、行動解析や薬理・電気生理学的手法に加え、生体イメージング(PET/MRI)による全脳活動計測や最先端の遺伝子導入法による神経活動操作 (DREADD) などの複数の技術を融合した独自性の高い研究を展開しています。 |
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研究紹介Research Introduction |
脳神経回路のはたらきと精神・神経疾患の病態回路に関する基礎研究 |
考えたり感じたり覚えたりという私たちの「こころ」のはたらきは、脳内の1千億を超える「神経細胞」がそれぞれ複雑につながった「神経回路」が「システム」として正しく働くことで成り立っています。このシステムの不全は精神・神経疾患で見られるさまざまな症候を引き起す原因と考えられています。当研究チームは、神経回路のシステム的な理解を目指すとともに、精神・神経疾患の病態解明や診断・治療法の開発に取り組んでいます。 |
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1. 意欲・感情の制御メカニズムとその障害に関する研究 |
不安や恐怖などの感情がコントロールされ、やる気がみなぎることは、私たちの豊かな精神生活の基本です。また思い出などの記憶もまた、感情と深く関係があることが知られています。これら意欲、情動、記憶などを司る大脳辺縁系という神経回路を中心とした脳システムのはたらきについて、基礎的な理解を深めるとともに、その障害とヒト精神・神経疾患との関連の理解を進めています。
やる気(意欲)については、サルの報酬獲得行動を詳しく定量・数理モデル化することで、意欲制御の複数のプロセスを明らかにしました。また、神経活動操作法や脳活動イメージングにより、そのプロセスが神経回路でどのように処理されているかを紐解いています。加えて、生体分子イメージング技術により、ドーパミンやセロトニンといった分子の役割についても探索しています。うつなど精神疾患にみうけられる意欲低下が生じるメカニズムを、神経回路のシステム障害として理解することを目指します。 |
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2. 化学遺伝学手法による神経回路制御とイメージングの融合技術の開発・応用研究 |
神経回路のシステム的な理解のために、回路の一部の神経活動を操作することによって変化する機能を同定することが重要です。「化学遺伝学」という手法は、脳回路の一部の神経細胞集団に「スイッチ」の役割をする人工受容体タンパク質を遺伝子導入技術により発現させ、その受容体にだけ作用する薬で神経活動を操作する手法です。私たちは、霊長類の脳に発現させた人工受容体をPETで画像化する技術を独自に開発し、これまでサルでは難しかった、化学遺伝学による神経回路の制御を実現しました。そして、この技術により意欲に関わる神経回路の一端を明らかにしました。
研究チームはこの技術をコアの一つに据え、サルの神経回路のシステム的理解の加速と、疾患モデルサルの作出に展開しています。さらに、イメージングなどの全脳活動計測との融合技術開発にも力を入れており、最終的には、精神・神経疾患の原因となる神経活動を調整する画期的な治療法の開発を目指します。 |
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開発したPETモニタリングによるサル脳神経活動操作法(DREADD-PET法)
サルが生きた状態でPETを用いて人工受容体の発現を確認した後、人工受容体に作用する薬物を全身投与することで、神経回路の標的部位の遠隔操作が可能になった。 (NagaiらNat Commun 2016) |
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3. 疾患モデル動物の作出と症候メカニズムの解明・治療法の探索 |
ヒトでみられる症候に類似した振る舞いを再現する精神・神経疾患のモデル霊長類動物を作出し、脳の機能障害を明らかにする基礎研究を進めています。特に、分子や全脳での神経活動を生体で評価できるPETイメージング技術の特徴を生かして、これまでにパーキンソン病やトゥレット障害のモデルサルにおいて、症候の背後にある病態神経回路を明らかにしてきました。現在、遺伝子変異や操作・改変による複数の疾患モデル霊長類を対象に、PETイメージングを用いた評価を外部の研究機関との共同で進めています。 |
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図3: トゥレット障害モデルサルにおける病態回路のイメージング。音声チック中に過剰に亢進した脳部位として前部帯状皮質(上)や扁桃体 (下)が特定できた。 (McCairn, NagaiらNeuron 2016)
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