HIMAC REPORT

モンテカルロシミュレーションを用いた
スキャニングビームの広がりの評価


背景:

現在、次世代照射システム研究グループでは炭素線高速スキャニング照射に向けて装置の開発がすすめられています。このスキャニング照射ではペンシルビームを用いてがん領域を塗りつぶすように照射していきます。深さ方向はレンジシフタと呼ばれるアクリル板を挿入することでビームエネルギーを調節します。スキャニング照射ではペンシルビームを重ね合わせて照射野を形成するため、ペンシルビームの広がりが小さい程、がん患部形状を細いビームのペンで精度よく塗りつぶせることを意味します。ビームが広がる原因は二つ挙げられます。ビームがレンジシフタを通過する際に核破砕反応が起こります。この核破砕片が大きな角度で散乱されビームサイズは大きくなってしまいます。一方、レンジシフタがなくても患者体内において核破砕反応は起こりビームサイズが広がります。

将来的には放医研NEWS 5月号で紹介された可変エネルギービームを用いて深さ方向を制御し、レンジシフタも不要にする予定です。

その場合どのくらいビームの広がりを抑えられるか検討しました。

今回は炭素線スキャニングビームのシミュレーションについて紹介します。シミュレーションで仮想的に可変エネルギービームを用いた場合を再現し、レンジシフタを使用した場合との比較を行いました。

シミュレーション:

現在開発されている治療計画システムでは図1のように炭素線ペンシルビームは3つのガウス分布で近似しています。ガウス分布の第一成分は炭素線の多重散乱による広がり、第二、第三成分は核破砕片による広がりを意味しています。


図1:治療計画ペンシルビームモデル。

シミュレーションでは図2のような装置がビームライン上にあると仮定しました。ターゲットとして30cm×30cm×30cm水ファントムを設置しました。水ファントムの深さ方向を1mmスライスに分割し、それぞれのスライスごとのエネルギー付与を図1のような3つのガウス分布で近似しました。


図2:シミュレーションでのビームライン設定

このシミュレーションでは2種類の計算を行いました。計算1:レンジシフタの厚さを変えながら同じエネルギーを照射。計算2:レンジシフタ無しで、加速器でエネルギーを変更しながら照射。

結果:

図3左は、レンジシフタ厚に対する第一、第二、第三成分のガウス分布の横方向広がり (σ) をプロットしたものです。図には加速器でエネルギーを変えた場合のσの値も示してあります。この場合エネルギー可変の方が、広がりが小さいことがわかります。次に全線量に対する核破砕片のもつ線量の割合について調べました。全線量に対する第二、第三成分の割合をそれぞれ f2 、f3 とし、図3右にプロットしました。レンジシフタを用いた方法ではレンジシフタが厚くなるにつれて核破砕片がもつ線量の割合が増加します。今回のシミュレーション結果より、将来加速器での可変エネルギービームを用いることでよりシャープなペンシルビームでスキャニング照射が可能になり正常組織への線量が少なくできると考えられます。


図3:左)レンジシフタ厚に対するビームの広がり。
右)レンジシフタ厚に対する核破砕片が与える線量の割合。

今後:

今後治療計画の中で、加速器でエネルギーを変えてビームの広がりを抑えた場合正常組織への線量が実際どれだけ抑えられるかについてシミュレーションを用いて評価していきたいと考えています。


重粒子医科学センター 放射線治療品質管理室
永野あい


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