HIMAC REPORT

X線FPDを用いたHIMAC患者位置決めシステムの開発


HIMACでは治療照射時の患者位置決めに2方向のX線撮影画像を用いて3次元的な位置合わせをおこなっていますが、その撮像部にこれまではImage Intensifier (II管)を用いてきています。一方、診断分野ではX線撮像装置としてX線半導体撮像素子 (FPD) が普及しつつあり、光子線治療の位置決め用にもFPDが用いられつつあります。FPDは、II管のような画像歪がなく、高空間分解能(HIMACの設置条件で約0.1mm/pixel、II管の場合約0.7mm/pixel)で、ダイナミックレンジが広く (FPD;12bit、 II管;8bit @HIMAC) 被写体の密度差によるハレーションの影響を受けにくいなどの特徴を持ち、高精度の患者位置決めに適した撮像装置です。実際、照射装置としては特殊な機構となる炭素線-眼治療での位置決め用には2005年からFPDを用いており、0.1mmレベルでの標的位置ズレの補正を行ってきた実績があります。しかしながら粒子線施設での汎用的な利用で懸念されるのが、半導体素子の中性子等への耐久性でした。II管では受光部に半導体素子の1つであるCCD (Charge Coupled Device) が用いられていますが、粒子線治療室の環境ではピクセル単位での素子の欠損が累積し画質が劣化します。このため半年から1年でCCDを交換して運用しています。この現象はビームライン監視用CCDカメラでも起き、これらの経験から粒子線施設ではFPD素子にも同様の損傷が起きると誰もが考えていました。実際そのような事象の報告もあり、これを低減させようとすると治療ビーム照射時にFPDをなるべく遠くに退避させる機構が必要となり、臨床用としては使い勝手が悪く、維持コストも問題となります。そのような背景の中、2008年にキャノンマーケッティングジャパン (株) の協力を得てFPD (キャノン製CXDI) のHIMAC照射室環境における耐久性の試験をおこないました。その結果、誰もの予想を裏切って、何ら劣化が起きないことが観察されました。さらに実際の臨床状況ではあり得ませんが、治療照射と同程度の線量で炭素線ビームをFPDに直接照射しても画素の欠損が起こりませんでした (このことはFPDが粒子線のビームモニタになり得る可能性を示す)。


図1;頭部ファントムでのX線撮影画像の例。
左側はII管画像、右側はFPD画像。


図2;開発したFPD用架台 (垂直方向用)
従来のII管用架台に比べて大幅に軽量化でき、治療時の作業も改善される。

X線FPDには、受光部の構造から直接変換型と間接変換型があり、またそこに使用される半導体はメーカによって異なり (企業秘密)、上記の結果がFPDに一般的なことかどうか、またCCDで経験している損傷とFPDでの違いのメカニズムも現時点では不明です。しかしこれらの結果から、照射室内でのFPDの設置条件が大幅に緩和でき、ルーチンでの臨床運用に適したX線FPDの整備を加速することになりました。

一方、X線FPDを患者位置決め用に利用するには、単に撮像装置を置きかえるだけではなく、その画質を十分かつ最適に利用するための位置決め用ソフトウエアの開発や周辺機器の整備も重要となります。さらに現在年間約700人の患者治療の運用に支障を与えず、限られた時間の中で全室 (A室、B室、C室、シミュレーション室) の位置決めシステムを入れ替え、スムーズに臨床運用に移行することが要求されます。現在、そのための準備・試験作業が進行中であり、この夏のHIMAC定期点検期間中にFPD位置決めシステムへの移行を計画しています。今後の経過については、改めて紹介したいと思います。

物理工学部 蓑原 伸一
加速器エンジニアリング 池田 稚敏


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