HIMAC REPORT

将来に備えてHIMAC施設の放射線安全研究



■ はじめに

HIMAC施設の設計当初には、遮蔽および加速器構造物の放射化についてのデータはきわめて少なかった。遮蔽については高エネルギーのヘリウムがターゲットに衝突したときの中性子の量およびエネルギースペクトルをもとにした計算が行われました。これらに基づいて安全側に設計された結果、遮蔽などに関して安全上問題となる点はありませんでした。しかし、今後の重粒子加速装置を効率的に遮蔽するためのデータを得ることは将来の同様の施設設計の上で必要です。HIMACにおける遮蔽などの研究は、東北大学グループ、理研グループおよび放医研グループで行われました。本稿では放医研グループの研究を中心に報告します。

■ 放医研グループ

使用した中性子測定器は、レムカウンタであり、アンダーソン・ブラウン型(AB型)およびビラタリ型(Br型)です。AB型はポリエチレン中性子減速材と少量のホウ素10の中心にBF3カウンタまたはヘリウム3カウンタを配置したもので、測定された計数が中性子の人体への影響に比例するように、つまり、実効線量が測定できるように設計されたものです。AB型は20MeV付近までの中性子に対しては実効線量を近似的に正しく測定しますが、それ以上のエネルギーでは感度が下がります。Br型は減速材としてさらに鉛を用いることにより低エネルギーの中性子のエネルギーは変えずに高エネルギーの中性子の計測数を実効線量相当になるようにした測定器であり数100MeVまでの中性子の実効線量を測定できるとされています。我々の研究では主としてこのBr型を使用しました。

遮蔽実験においては重粒子がターゲットにおいて発生させる中性子と遮蔽体との間にコンクリートや鉄などを置いて減弱を測定します。照射室内における予備的な実験の結果、このような配置で、レムカウンタを用いた測定では遮蔽体の入射ビームに対する表面積が不十分であり、また散乱中性子線影響を受けることが明らかになりましたので、減弱厚(線量が2.7分の1になる遮蔽体の厚さ)については、重粒子のエネルギーによる減弱厚の変化のみを照射室において測定し、減弱厚の絶対値は実際の遮蔽壁の測定結果などから求めました。核子当たり400MeVの炭素粒子の場合、中性子実効線量は、ターゲットから1mの位置で、重粒子数が1秒当たり108個の時、8.9x105μSv/hr、コンクリートの減弱厚は、0.48mでした。核子当たり800MeVのシリコン粒子の場合、それぞれ、1.1x107μSv/hr、0.51mです。鉄の減弱厚は測定した範囲内で約0.20mでした。

一般的に高エネルギー粒子によって発生した中性子の角度分布は前方方向が強いのですが、重粒子の場合も同じです。その測定を行った結果を図-1に示します。Scattered Radiationとあるのはターゲットと測定器の間にターゲットから測定器が見えない形状の厚さ1mの鉄を配置して、散乱線の影響を測定したものです。エネルギーが高くなるほど前方ピークの様相が明瞭に示されています。このデータはビーム前方の遮蔽壁の設計上有用です。


図-1. ターゲットから1mの点における中性子実効線量の角度分布

ターゲットの放射化は加速器の保守をする上で重要な問題ですが、エネルギーの核子当たり800MeVのシリコンを毎秒108個で30分間、鉛、銅、アルミニウムに当て、これらのターゲットの放射化によるガンマ線線量が時間経過とともに減る様子を測定しました。その結果を図-2に示します。重粒子による照射または実験において、照射体を通過したビームを停止させるビームダンプにアルミニウムが適当であることが分かります。

図-2. アルミニウム、銅、鉛を核子当たり800MeVのシリコン粒子で照射した後の放射化によるガンマ線線量の時間経過による減弱

この他、我々は、LET比例計数管を用いて重粒子のターゲットへの衝突により発生する中性子およびガンマ線によるy分布の測定を行った。角度分布においては、角度が大きい場合、遮蔽体後方においては、遮蔽体が厚いほどチャンネル当たりの計数が、低いLETの領域で多いことが示された。

■ 東北大学、理研グループ

HIMACにおける重粒子と物質の衝突による中性子の立体角当たりの粒子数およびスペクトルは東北大学および理研グループによって測定され発表されています。東北大学グループはシンチレータ内で発生した陽子のスペクトル、中性子についての飛行時間法(TOF)およびこのグループが開発した中性子衝突により発生した陽子についてのTOF法により中性子の粒子数とスペクトルを測定しました。また、理研グループは炭素とビスマスの放射化により求めました。理研グループはターゲットの放射化によるガンマ線スペクトルを詳細に測定し、任意の時間照射した物質の任意の時間経過後のガンマ線線量の計算を可能にしました。これらの結果の報告は、最後の記した我々の論文の参考文献として挙げてあります。コンクリートおよび鉄の減弱厚およびターゲットの放射化による線量につきましては良い一致を見ました。

■ 普及型がん治療施設

「放医研NEWS」、2005年6月号に紹介されておりますように、放医研において、現在、普及型がん治療施設用小型シンクロトロンが設計されつつあり、上に述べたデータも利用されております。

( 加速器物理工学部 客員研究員 隈元 芳一 )

<本稿に関する論文>
Yoshikazu Kumamoto, Yutaka Noda, Yukio Sato, Tatsuaki Kanai and Takeshi Murakami, Measurements of neutron effective doses and attenuation lengths for shielding materials at the Heavy-Ion Medical Accelerator in Chiba, Health Physics, 88, 469-479, 2005.


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