お知らせ

重粒子線治療の普及を目指した研究を推進


- 独法後の中期計画を振り返って -


重粒子医科学センター長
辻井 博彦

重粒子医科学センターの4年間はいろいろなことがあった。なかでも、重粒子線治療が厚生労働省より高度先進医療として承認されたことは大きな収穫であった。また、小型加速器の要素技術の開発や、4次元CT装置、超高磁場MRI装置、次世代PET装置の開発、およびPETによる分子イメージング研究等々で見るべき成果が得られた。以下、当センターの成果を網羅的に紹介する。

■ HIMACの利用と機器開発

2003年度10月、重粒子線治療は厚生労働省より「固形がんに対する重粒子線治療」という名称で高度先進医療の承認が得られた。このことは、重粒子線治療が開始以来10年の歳月を経てようやく一般医療の仲間入りを果たしたことを意味し、感慨深いものがある。翌年、これに花を添えるかたちで「HIMAC10周年記念行事」が行われた。患者数は右肩上がりに増加してきたが、(図-1)、これは照射法がほぼ確立されたことに加えて、一人当たりの治療回数が平均13回と大幅に短縮されたことによる。2005年2月の時点で患者数は2,000人以上となり、このうち高度先進医療で治療された患者数は342人である(図-2)


図-1 放医研における重粒子線治療の登録患者数

図-2 放医研における重粒子線治療の登録患者数

HIMACは、シンクロトロンリングを2台備え、入射器ビームが直接利用可能で、また陽子からΧeまで加速可能であるなど豊富な機能を備えている。そのため、夜間や週末のがん治療を行わない時間帯は、共同利用施設として国内外の研究者に提供されてきた。最近の加速器の運転時間は年間約5,500時間で、毎年500人以上の外部研究者から申請のあった120以上の課題が採択されてきた。これまでHIMACは、ほとんど故障らしいこともなくビーム供給が行われてきたが、HIMACがかなりの大型装置であることを考えると、これだけでも立派な成果といえる。

治療関連の基盤研究では、粒子線治療のためのQAガイドラインの作成や、空間的線量分布の向上を可能にしてくれる積層照射法の開発など、多岐にわたっている。また、GSIのスキャンビームによる線量分布と、HIMACの散乱体方式による線量分布との比較研究が、物理線量分布曲線やHSG細胞の生存率曲線の比較というかたちで実現した。このデータは今後、両施設の治療成績を比較する上で、非常に有意義な研究である。

重粒子線治療に対する関心は世界的に高まっており、より小型で安価な装置の開発が望まれている。わが国でも、多くの自治体から重粒子線治療の導入に向けて、放医研からの技術・人材支援が求められているが、何にも増して要望が強いのは小型普及型加速器の開発である。こういった背景のもとわれわれは、実際の重粒子ビームを用いて実験を行うための小型リングを設計・設置し、また治療装置の小型化に必要な設計の最適化と要素技術の開発を行った。

■ 放射線診断に関する研究

各種診断機器の中でCT技術の進歩は日進月歩であるが、現在、1本のX線ビームに対して複数の検出器で画像採取を行うマルチスライスCTが主流となっている。こういったなかでわれわれが開発を進めている4次元CT装置は、高速コーンビーム(円錐状ビーム)を照射し、2次元検出器で投影データを収集して3次元立体像を再構成、これに時間軸を加えることにより、動く臓器のストップモーション撮影やダイナミック診断などを可能にしてくれる装置である。すでに2号機が導入され、人を対象とした試験を実施するまでになった。なお、独法成果活用事業の一環として4次元ビュアーの開発も行っている。

MRIに関する研究も着実に進んでいる。独法成果活用事業の一環として、生体高分子イメージングや、核磁気共鳴スペクトロスコピー、超高磁場MRIなどの計測に広く活用できる世界初の自己遮蔽型超伝導磁石を開発した。これは磁場が7T(テスラ)と高磁場で、マグネットの空間の大きさが400mmという大きさを誇り、サルまでの大きさの実験動物の生体内を50μmという分解能で観察することが可能である。

最近、診断機器の高度化に伴い医療被ばくが関心を集めているが、これに拍車をかけたのが、The Lancet(2004年1月31日号)に掲載された論文と、それを報道した新聞記事である。こういった国民の医療被ばくへの不安に対してわれわれは、日本人のCT検査による患者被ばく線量の実態調査に基づき、「患者が被ばくに関する報道記事を読むことにより、受けるべきX線検査を忌避して受けられるはずの健康上の便益を受けないことがあってはならない」との警鐘を鳴らした。


図-3 診断機器の開発

■ PET/SPECT関連の研究

国際的なPET開発競争の中でわれわれは、国内メーカや大学の研究者・技術者と共同で、高感度と高解像度を両立する「3次元放射線検出器」を実装した次世代PET装置を試作、初めて高解像度PETの撮像に成功した。「jPET-D4」と名付けられた本装置は、従来の装置では達成不可能であった3mm以下の解像度と、3倍以上の感度を可能にしてくれる優れものである。

PET/SPECTとNMRの研究では、生体機能を画像化するための分子イメージング法を開発し、その臨床利用を推進した。多様な放射薬剤の製造・合成システムに関しては、汎用型多目的自動合成装置及び制御装置を開発した。また、18F標識化合物の超高比放射能化を行い、新たにいろいろな受容体リガンドやPET薬剤を開発した。臨床研究では、地下鉄サリン事件被害者を対象に、脳内アセチルコリンエステラーゼ活性測定を行い、心的外傷後ストレス症候群(PTSD)の病態解明の可能性を示した。

民間企業からの受託研究の一環として、新しい抗うつ薬(LY248686)の適切な用法・用量を決めるためのPETを用いた治験を実施した。これは、わが国で初めてのPETを用いた本格的な臨床試験である。従来の方法だと、多数の患者に薬を投与し、その血中濃度と薬の効果や副作用の相関性から用法・用量を推測するのであるが、本法ではPETにより薬の占拠率状況等を観察できるので、科学的根拠に基づいた用法・用量の設定が可能となる、画期的な方法である。PET利用により、安全で合理的な薬物療法の進展に大きく貢献することが期待される。


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