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全方向性(0〜360度)
ガンマ線検出器の開発に成功


放射線事故の発生地点,放射線漏えい箇所や放射性物質の存在位置を遠方から発見が可能に


原子力,放射線事故などの緊急時を想定すると,いかに人の安全を確保し,いかに適切な回復措置を採るかは極めて重要である。そのためには,

1) 発生源の特定(どのような放射性物質が何処から漏えいしたか?)
2) 放射性物質による汚染箇所の発見(どのような放射性物質が何処に付着しているか,浮遊しているか?) を迅速におこなうことが必須である。また日常の放射線管理においては,
3) 異常データの識別(異常値が原子炉等起因か降水などの自然現象起因か電気ノイズかの識別)
4) 加速器施設,放射性同位元素使用施設の放射線漏えいの有無の判断

などが安全確保の上で必要である。

このためには従来の検出器では得られないγ線が飛来する方向に関する情報が必要である。しかしながら現在のγ線シンチレーションサーベイメータ(可搬式)やモニタリングポスト(固定式)は,主としてγ線の計数(単位はcpm,m-1)や計数から誘導される線量(μSv/h)を指示するものが主流であり,γ線の飛来方向を識別する実用的な装置は未開発だった。

そこで3年前から理事長調整費を活用して,「放射性物質の存在位置と核種の遠隔同定法の研究」を立ち上げ,γ線の方向を特定できる検出器の開発を進めてきた。まず検出器前方を0度として0-90度の方向に感度を有する検出器を試作した。さらに0-180度の方向性検出器を開発し,最終的に全方向,すなわち0-360度方向を識別する検出器の試作および性能評価実験をおこない,実用化の目処をつけた。本研究の推進の中ですでに2件の特許を出願した。

研究内容の要約

図-1 全方向性γ線検出器

図-1のように120度の扇形をした,異なる特性の3種類のシンチレータA,B,Cを光学的に接合し,ひとつの円柱状のシンチレータを作る。そして垂直方向に光電子増倍管を結合した検出器を組み上げる。60度方向からγ線が飛来した場合はAシンチレータ自身の相互作用確率(光電効果に着目する)は最大となる。これはスペクトルにおける光電ピークの計数に対応する。180度の場合はBシンチレータ,300度の場合はCシンチレータで同様なことが起きる。すなわちスペクトルにおいて観察される3つの光電ピークの計数値は入射方向によって変化する。したがって,この変化を独自の指標を用い,0〜360度の方向と関係付けることができれば入射方向を特定できる。計測原理を実現するためにA,B,Cシンチレ-タに求められる性質として,1)統計的誤差を低減し短時間で測定を終えるためにγ線の検出効率が高いこと,2)スペクトル上で,いずれの検出器で光電効果が生じたかを識別するために発光強度に充分な差があること,が望まれる。上記の性質を満たすものとして,AにはNaI(Tl)【ヨウ化ナトリウム結晶】,BにはCsI(Tl)【ヨウ化セシウム結晶】,CにはBGO【ビスマスジャーマネイト結晶】シンチレ-タを採用した。

実験には線源として使用頻度の高い137Csを用いた。取扱いを容易にし,安全に実験を進めるために法規制外の微弱な3.7MBqの密封線源を使用した。線源とシンチレータ中心までの距離を1m,計数時間300secとした。この条件は,たとえば線源強度37 GBq,線源距離10 m,計数時間3 secと等価である。実験によって理論どおり3つの明瞭なピークが図-2のスペクトルのなかに観察された。またNaI(Tl)の最大ピークは60度近傍,最小ピークは240度近傍に得られた。同様な観察でCsI(Tl)については,180度近傍,360度近傍,BGOについては300度近傍,120度近傍にそれぞれ最大ピーク,最小ピークが見られた。本結果は計測原理で予測したとおりであった。計測原理は証明されたので,具体的に方向を識別する論理を構築した。距離や線源の強さに依存しないような指標が必要である。各ピークの計数値をNaI,CsI,BGO と表現し,

T = NaI + CsI + BGO (1)

とする。このTは3つのピークの総計数となる。さらに(1)式を変形し,

NaI / T + CsI / T + BGO / T =1 (2)

を得る。方向を表す特徴量Rとして,

R = (NaI / T, CsI / T, BGO / T) (3)

を採用した。

これら3つの比率(特徴量NaI / T, CsI / T, BGO / T)は図-3のようにサイン関数で変化する。これら応答曲線は近似すると,

NaI / T = 0.154 x sin(θ+30) + 0.178 (4)
CsI / T = 0.176 x sin(θ- 90) + 0.243 (5)
BGO / T = 0.260 x sin(θ- 210) + 0.589 (6)

が得られる。NaI / T, CsI / T, BGO / Tは計測によって与えられる量である。これを代入して解くとθが求められる。スペクトルの3つのピークから飛来方向θが求められることが実証された。低エネルギー241Am,高エネルギーの60Coにおいても飛来方向θが求められた。すなわちほぼ全エネルギー領域のγ線に対して本検出器は有効に機能することが証明された。今後は実用化を目指していきたい。

飛来方向60度,180度,300度時のスペクトル
図-2 飛来方向60度,180度,300度時のスペクトル(右からNaIピーク,CsIピーク,BGOピーク)
NaI,CsI,BGOシンチレータの応用曲線
図-3 NaI,CsI,BGOシンチレータの応用曲線
(NaI/T,CsI/T,BGO/Tの指標と方向の関係)

(研究推進部 白川 芳幸)


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