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紫外線照射中に動物の皮膚で生成するフリーラジカルの測定に成功
-皮膚の老化や皮膚がんのメカニズム解明・抗酸化剤評価に寄与-


放医研の竹下 啓蔵主任研究員(放射線安全研究センター レドックス制御研究グループ)らは、山形大学工学部電気電子工学科との共同研究で、紫外線照射時に皮膚中に生成する活性酸素の一種、パーオキシルラジカルの測定に成功した。これは、パーオキシルラジカルの生成を電子スピン共鳴(ESR)装置を使って生きているマウス上で調べたもので、紫外線によって生成するフリーラジカルを生きた動物の皮膚中で測定できたのは世界初である。パーオキシルラジカルは皮膚の老化や発がんに関係していると言われており、これを生きた動物の皮膚で測定できたことは、紫外線による光老化や皮膚がんのメカニズム解明につながる。また、紫外線から皮膚を守るための薬剤の効果を、皮膚におけるラジカル消去能に基づいて評価することに役立つものと期待される。


太陽からの紫外線のうち地表に達するものは、UVA(波長320〜400nm)とUVB(波長280〜320nm)である。このうち皮膚に対して日焼け、光老化や皮膚がんを起こす作用の強いのはUVBである。UVBの大部分はオゾン層により遮られているが、近年のオゾンホールの拡大でUVB照射量の増加とそれに伴う皮膚がん等のリスクの増加が間題となっている。

紫外線による光老化や皮膚がんには「活性酸素やフリーラジカル」(※1)が関わっているといると言われでいるが、これまで紫外線照射下の皮膚組織内でこれらが生成されることを実証した例は無い。活性酸素やフリーラジカルは他の生体分子と反応する性質が強く、寿命が極めて短い[生体内ではナノ秒(1/109秒)からマイクロ秒(1/106秒)のオーダーと推定される]ため、一般の物質のように体外に取り出して測定することはできない。そのため活性酸素やフリーラジカルは体内でできたときに速やかに測定する必要がある。

放医研レドックス制御研究グループでは、山形大学工学部との共同研究により、生きているマウスヘの紫外線照射時に皮膚組織で生成するパーオキシルラジカルを測定することに初めて成功した。

今回用いた測定方法は、ニトロキシルラジカルという安定したフリーラジカルが、パーオキシルラジカルなどの反応性の高いフリーラジカルと反応して 「電子スピン共鳴:ESR」(※2)の信号を失うことを利用した方法である(図-1)。さらに、動物に投与したニトロキシルラジカルのESR信号を生きた動物皮膚で測定するために、表面コイル型共振器と呼ばれる検出器をL-バンドESR測定装置という動物測定用の特殊なESR装置に取り付け、これを皮膚表面に置いた。表面コイル型共振器は皮膚などの非常に浅い部分を測定できる特性を持つ。生体内でニトロキシルラジカルのESR信号は、代謝等の影響を受けて徐々に減少する。しかし、「ヘアレスマウス」(※3)に静脈内投与したニトロキシルラジカルの皮膚における信号を、L-バンドESR測定装置に接続した表面コイル型共振器で測定すると、UVAとUVBの両方の波長域を含む紫外線の照射下では、信号が速く減少するようになった(図-2)。ビタミンE誘導体などのパーオキシルラジカルを消去する化合物をあらかじめこのマウスに投与しておくと、ESR信号減衰速度の増加が抑えられたことなどから、ESR信号減衰速度の増加はパーオキシルラジカルによることが確認された。紫外線照射下で生きた動物の皮膚組織内で生成するパーオキシルラジカルを測定できたのは、今回が初めてである。

パーオキシルラジカルは細胞膜を形作る脂質などの酸化で生成する活性酸素の一種で、老化や発がんに関与することが示唆されている。

本測定方法の開発は、紫外線による光老化や皮膚がんのメカニズム解明につながるばかりでなく、紫外線から肌を守るために開発される薬剤の効果を、皮膚におけるラジカル消去能に基づいて評価するのに役立つものと期待される。

ヘアレスマウス 皮膚におけるラジカル生成の測定方法
図-1 皮膚におけるラジカル生成の測定方法

ESR信号滅衰速度に及ぼす紫外線照射の影響
図-2 ESR信号滅衰速度に及ぼす紫外線照射の影響
(は、ESR測定の途中から紫外線を照射した場合)

※1. 活性酸素とフリーラジカル:活性酸素は酸素が他の分子と反応しやすい形となったものであり、またフリーラジカルは通常2つの電子が入る電子軌道に1つの電子しか存在せず(不対電子)、不安定な状態となった物質。活性酸素のうちスーパーオキシド、ヒドロキシルラジカルやパーオキシルラジカルはフリーラジカルである。

※2. 電子スピン共鳴(ESR):フリーラジカルを、それのもつ不対電子と外から加えた磁場との磁気的相互作用を利用して特異的に測定する分光学的方法。ちなみに医療で用いられるMRIや分子の構造解析に用いられるNMRは、原子核と外から加えた磁場との磁気的相互作用を利用した分光学的測定法である。

※3. ヘアレスマウス:皮膚研究などのために開発された毛の生えないマウス。

(放射線安全研究センター レドックス制御研究グループ 主任研究員 竹下 啓蔵)


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