がん治療最前線

シリーズ25
手術のできない骨肉腫に対する重粒子線治療


骨にできる悪性腫瘍には、大きく2つの種類があります。一つは、肺、乳房、前立腺など骨以外の臓器にできた癌が転移してできるもので、もう一つは、骨そのものに悪性腫瘍が発生するものです。この骨から発生する悪性腫瘍は、一般に肉腫と呼ばれ、皮膚や気道、消化管など直接外界と通じている細胞(上皮組織)から発生する悪性腫瘍(癌腫)と区別しています。


骨肉腫は骨そのものに発生する悪性腫瘍のなかでは最も数が多いものですが、罹患率は全悪性腫瘍の0.2%、人口100万人あたり年間4人-5人程度のまれな腫瘍です。しかし、小児悪性腫瘍の約5%を占め、発症年齢は10代に多発し、次いで20代と若年者に多く、男性にやや多い傾向があります。好発部位は四肢であり、若年患者では80%が膝関節付近に発生します。まず、最も多い四肢に発生する骨肉腫を中心にその臨床像および治療について述べます。

初発症状としては患部の腫れと疼痛(運動時ならびに安静時)が一般的です。歩き方の異常や骨折により発見されることもあります。単純X線写真では虫食い状の骨破壊像、骨膜反応などが特徴的な所見です。さらにCT(コンピューター断層撮影)、MRI(核磁気共鳴画像)、骨シンチグラムなどの画像検査を行い病巣の進展範囲や転移の有無を調べます。血液検査ではALP(アルカリフォスファターゼ、骨の酵素の一種) 値の上昇が見られます。生検(実際に腫瘍の一部を採取して病理学的に調べる)による組織診断が最終的な確定診断となります。治療法は患者の状態、腫瘍の進展範囲、転移の有無や組織学的悪性度を考慮し決定されます。

この四肢に発生する骨肉腫の治療成績は近年目覚ましく向上しました。1970年代後半以前の5年生存率は手術後に明らかになる肺転移のために10-20%でしたが、最近では50-80%に向上しました。その理由としては診断技術や手術技術の向上もありますが、最も重要なものは強力な化学療法の導入により肺転移を高率に抑えることが可能となったことです。長期に亘る多施設共同臨床試験の結果、多剤併用化学療法の有効性が証明され、現在では、術前化学療法→手術→術後化学療法という治療の流れが一般的です。化学療法は多剤併用(大量メトトレキサート、アドリアマイシン、シスプラチン、イホスファミドなど)で行われ、3〜4週に1回投与を手術前に数回、手術後にも半年から1年程度継続して行います。手術については、以前は患肢切断術が一般的で術後は義肢の装着が必要でしたが、強力な術前化学療法の導入により1980年代から患肢温存手術(腫瘍部分を広範に切除し、同種骨や人工骨、関節を埋め込み患肢を残す方法)が行われ、現在では標準的治療となっています。一方、骨肉腫は通常(X線など)の放射線治療が効きにくいことが知られています。

発症時、既に10〜20%の症例に転移が認められますが、その大部分は肺で、経過中に発生する転移もほとんどが肺に生じます。しかし、他の悪性腫瘍と異なり、骨肉腫では肺転移があっても、化学療法後、積極的に切除を行うことで長期生存される患者さんが増えています。

次に体幹部(脊椎や骨盤骨)に発生する骨肉腫について述べます。体幹部に発生する骨肉腫は極めてまれで、その頻度は骨肉腫の中の数%程度となっています。発生数が少ないため、四肢の骨肉腫のような組織的に研究された治療法の報告は多くありません。発生部位から手術が出来ない症例も多く、手術が出来たとしても骨盤骨の場合では、長時間に亘る大手術となり生命の危険を伴うことも少なくありません。欧米の多施設共同研究の報告では広範囲または腫瘍辺縁で切除できた(腫瘍が取り除けた)症例の5年生存率は約40%、手術で取り残しのあった場合や手術できない症例では5年生存する人はほとんどいません。しかも腫瘍を切除できた症例の数は、切除が出来なかった症例数の3分の1であり、体幹部の骨肉腫は現在も最も難治性の疾患の一つです。

当院ではこのような手術の出来ない体幹部の骨肉腫症例に対し、1996年から重粒子線治療(炭素イオン線)による臨床試験を施行し、これまでに約30名の患者さんを治療してきました。重粒子線治療ではその物理学的な特性により病巣部に線量を集中させ、周囲正常組織の障害を少なくすることができます。脊椎に病巣がある場合は脊髄に、骨盤骨の場合は腸管にあたる線量を少なくすることが出来るため、通常の放射線治療に比べ大線量を安全に病巣部にかけることができます。また、通常の放射線治療には抵抗性である骨肉腫の腫瘍組織に対しても、優れた抗腫瘍効果を示すことが重粒子線の生物学的特性です。現在の治療成績は、5年局所制御率70%、5年生存率40%と切除と同等かあるいはそれ以上の成績が得られており、これらの症例がいずれも手術ができない症例であることを考慮すると非常に良好な成績と考えられます。1回の治療は数十分同一体位を保持している間に終了し、苦痛はほとんどありません。治療後も多くの患者さんは治療前と同等かそれ以上の生活状態を維持しております。現在、週4回計16回、1回線量4.4GyE計70.4GyEの大線量を病巣部に照射するという第II相試験が進行中ですが、さらに高度先進医療の認可を申請中です。このように、重粒子線治療は手術のできない骨肉腫に対する治療法の新しい選択肢の一つとなりつつあると言えます。

仙骨骨肉種(17歳男性)

(重粒子線医科学センター病院 今井礼子、鎌田正)


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