放医研、海外渡航時の宇宙線被ばく線量を知らせる携帯版システム
「JISCARD Mobile」を開発
3月6日から、携帯電話で国際線搭乗時の被ばく線量の検索が可能に

【概要】

放射線医学総合研究所(米倉義晴理事長)放射線防護研究センター宇宙線被ばく研究チームの保田浩志チームリーダーらは、国際線航空機に搭乗した際に受ける宇宙線による被ばくの量を計算して表示するインターネットツール「航路線量計算システム(JISCARD*1: Japanese Internet System for Calculation of Route Doses)」の携帯電話版「JISCARD mobile」の開発を完了し、3月6日から公開します。このシステムでは、自分の携帯電話からJISCARD mobileのURLにアクセスし、画面に現れるプルダウンメニューで出発空港、到着空港及び飛行時期(月単位)を指定すると、その路線の飛行中に宇宙線によって被ばくすると推定される実効線量(航路線量*2)の値が、直ちに画面に表示(搭乗時間やマイル数も併せて表示)されます(通信料以外無料)。例えば、2006年12月の成田→ニューヨークでは81μSv(マイクロシーベルト)、成田→サンパウロでは112μSv、関空→ソウルでは5μSvなどを画面に即時表示します。線量計算の条件や線量値のデータベースは既存のJISCARDと共通で、宇宙線被ばくに関連する参考情報(要約版)も、PC版同様に画面上で見ることができます。本システムのURLは、【http://www.nirs.go.jp/research/jiscard/mobile/index.html】。QRコードは、PC版JISCARDの携帯サイト紹介ページ【http://www.nirs.go.jp/research/jiscard/index.shtml】から入手できます。なお、同システムの利用を推奨されている機種はNTT DoCoMoとauのものであり、その他の会社の製品については、動作確認ができていません。

QRコード

【背景】

航空機搭乗中は、地上で日常的にあびている自然放射線よりも強い宇宙線にさらされます。そのため、パイロットや客室乗務員など頻繁に航空機に搭乗する人については、宇宙線による被ばくが健康にもたらす影響が懸念されています。民間航空機が飛行する高度(10~12km)では、宇宙から飛来する放射線(以下「宇宙線」という。)の強度が地上に比べて100倍近く高くなります。この航空機搭乗時に受ける被ばくの量(航路線量)は、航路が高緯度地域にあるほど、また、フライト時間が長いほど大きくなります。そのため、国際線航空機に頻繁に搭乗しなくてはならないパイロットや客室乗務員が航空機搭乗時に受ける年間の被ばく線量は、一般公衆の線量限度として示されている1mSvを超える場合が考えられます。こうした状況を踏まえ、国際放射線防護委員会(ICRP)*3は、1990年の勧告等を通じて、ジェット機の運航や宇宙飛行等において、宇宙線による被ばくを職業被ばくの対象として考える必要性を指摘しています。欧米諸国では、これらを踏まえて、航空機乗務員の被ばくを管理するためのガイドラインの整備等を行ってきました。我が国でも、文部科学省において航空機乗務員の被ばくの取り扱い等に関する審議が2年にわたり行われ、放射線審議会策定のガイドラインが航空会社に通達されました。

一方で、ビジネスマンや旅行客ら一般の乗客の間にも、宇宙線による被ばくに対する関心が高まりつつあります。今回放医研が開発したシステムは、こうした社会的関心の高まりに応えるためのもので、信頼できる情報を携帯電話を通して、国民に対し簡便かつ確実に提供することを狙いとしています。

【航路線量の計算方法】

計算コードには、米国の連邦航空局(FAA: Federal Aviation Administration)の協力を得て、FAAが開発したCARI-6コード*4を用い、2001年から2011年までの月別平均の航路線量値を推定しています。(計算期間を11年としたのは、太陽活動:磁場が約11年で周期的に強弱を繰り返すことによります。)

航路線量の計算は、飛行条件に関する以下の入力情報に基づいて行っています。

航路については、比較的日本人乗降客の多い35都市への、成田国際空港及び関西国際空港発着の国際路線を選定しました。いくつかの代表的なトランジット路線についても、搭乗する路線の線量を合計して求めています。飛行高度については、国際線で平均的な巡航高度である36,000ft(約11km)及び通常の飛行で予想される最大高度(40,000ft、約12km)と最低高度(28,000ft、約8.5km)を採用し、それらに対して計算された値を併せて示しています。上昇下降の時間については、離陸から一定の高度変化率で上昇して15分で巡航高度に達し、着陸時には巡航高度から一定の高度変化率で20分かけて下降するという、若干短めの条件を与えました。全体の飛行時間には、実際には気候や空港の状況などで毎回異なってきますが、本システムでは月別平均の値を使用することを考え、日本航空のデジタル時間表にもとづいた標準的な飛行時間を採用しました。太陽活動については、FAAが公表している太陽磁場(ヘリオセントリックポテンシャル)に関する月別平均のデータを活用し、直近の期間についてはその周期変動を近似予測して用いています。計算条件についての詳しい説明は、本システムの「条件説明」のページに記載しています。

【システムの操作方法】

[1] 携帯電話から本システムにアクセスすると、初期画面(図1)が表示されます。


(図1) システムのトップページ

[2] ここで「▼システムはこちら」下の"JISCARD Mobile"をクリックして、計算画面(図2)に進みます。


(図2) 計算画面

[3] 最初の画面で出発空港を選択し、選択ボタンをクリックすると、目的地と日程を選択する画面(図3)に移動します。


(図3)目的地と日程を選択する画面

[4] 実効線量(搭乗時間)が表示されます。

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(図4)計算結果表示画面

【日常生活の中で受ける放射線被ばくとの比較】

(図5)に、太陽活動極小期に民間航空機が飛行する最高レベルの高度である40,000ft(約12km)を巡航高度とした場合の、成田発着の主要な国際路線に対する航路線量結果を示します。これらの値は、標準的な巡航高度(34,000~37,000ft)での値に比べると20~30%高くなっていますが、それでも1回の往復飛行で受ける線量が200_Sv(0.2mSv)を超えるケースは限られています。

一方、私たちは、航空機に乗っていなくても、地上で暮らしている間に絶えず自然界から放射線を浴びています。国連科学委員会(UNSCEAR)の2000年報告によると、実効線量の平均値として、宇宙起源の放射線から約0.4mSv、大地に含まれる自然放射性物質から約0.5mSv、飲食物から約0.3mSv、そして大気中に広く存在するラドン核種により約1.2mSv、合計すると年間約2.4mSvの自然放射線源による被ばくを受けているとされています。なお、日本国内の測定値を基に算出した平均被ばく線量は、上記の世界平均の値より少し低くなっています。

(図5)世界の主要な都市と成田の間を往復飛行した場合に受け得る実効線量値及び搭乗時間

計算は、CARI-6コードを用いて、保守的な飛行条件(太陽活動極小期、巡航高度40,000ft、上昇時間15分及び下降時間20分)の下で行った(保田ら(2004)のデータに基づいて作成.)。

また、自然放射線以外にも、日常生活の中で浴びる放射線として、診断や治療の際に受ける医療放射線があります。X線診断が広く社会に普及したことにより、その寄与は自然放射線に匹敵するレベルに達しており、加えて、近年のCT(コンピュータ断層撮影装置)等の高度画像診断技術の開発・普及により、医療放射線による人々の被ばくはさらに増える傾向にあります。ちなみに、人間ドック等で胸部CT検査を1回受けると、用いる装置にもよりますが、7mSv近くを浴びると推定されます。これは自然放射線被ばくの3年分に相当します。

このような日常生活で浴び得る放射線との比較で考えると、航空機搭乗時の宇宙線による被ばく(国際線航空機の乗務員で年間数mSv)が特に高いものではないことが分かります。原爆被爆者の追跡健康調査で得られている知見に照らしても、線量が100mSv以下の被ばくでは有意な生体影響の発現は認められておらず、放射線感受性が不確かな胎児(妊婦)については更なる調査研究が必要ですが、厳密な被ばく管理をしないと健康を損ねてしまうようなレベルではないと考えられます。

一方で、航空機内での被ばくには、地上で経験する被ばくとは異なる特徴があり、まだはっきりしない点がいくつか存在します。例えば、実測による検証が困難な高エネルギー中性子(>10MeV)と陽子それぞれのエネルギースペクトル、航空機内外や航空機内の異なる場所における線量の差異(現在の線量計算は航空機外の放射線環境に対して行われている)、体内における高エネルギー粒子のカスケード反応がもたらす生体影響、航空機搭乗に伴う放射線以外のストレス要因との複合的な作用等、解明すべき課題が残されています。疫学研究に関するいくつかの論文では、航空機の乗務員には特定の疾病の発症率が高いことが報告されていますが、その発症は放射線被ばくだけでは説明が困難であり、他の要因との相乗効果の可能性が考えられます。

今後、このような宇宙線被ばくによる健康影響評価に関わる不確かな点を調査研究によって明らかにするための取り組みが、望まれています。

【今後の展開】

日本から海外へ飛び立つ国際線航空機の数は、高水準で推移しています。こうしたことから、より多くの人々の関心に応えられるよう、今後本システムが取り扱うことができる空港や路線(トランジット路線を含む)を増やし、我が国の成田/関空以外の国際空港も徐々に取り扱えるようにしたいと考えています。また、将来の線量評価方法の変更等に迅速かつ柔軟に対応できるよう、現在は既存のコードに頼っている航路線量の計算について、新たなコードの開発も視野に入れたプログラムの改良を図り、本システムの信頼性を更に高めていきます。

(用語解説)

*1) JISCARD
Japanese Internet System for Calculation of Route Dosesの略。国際線航空機に搭乗した際に受ける宇宙線による被ばくの量を計算表示するインターネットツール。保田らが、平成17年9月15日にプレス発表した。

*2) 航路線量
航空機の離陸から着陸までの間に受ける被ばく線量のこと。実効線量で示すことが多い。単位はSv(シーベルト)。実効線量は、放射線防護の際に用いられる線量の一つで、放射線の確率的影響(ガン、遺伝的影響など)に対応している。放射線が体内に与えたエネルギー量(吸収線量)が同じでも、放射線の線質(種類・エネルギー)や、照射された臓器・組織によって予想される確率的影響の程度は異なる。このため、全身が被ばくした時の確率的影響に相当する量として評価を行えるよう、ICRPによって実効線量が導入された。

*3) ICRP
正式名称を国際放射線防護委員会(International Commission on Radiological Protection)という。1928年(昭和3年)に設立された国際X線・ラジウム防護委員会を継承して1950年に設立された、国際的な放射線防護の専門家の委員会である。1956年以降は世界保健機構(WHO)の諮問機関として、放射線防護に関する国際的な基準を勧告してきた。ICRPは非政府組織であるが、その勧告は国際的に権威あるものとされ、我が国をはじめ、各国の放射線防護基準の基本として採用されている。現在は、1990年に勧告(ICRP Publication 60)された放射線防護の基本体系が各国で取り入れられている。

*4) CARI-6コード
米国連邦航空局(Federal Aviation Administration: FAA)のDr. Friedbergらが開発した、航路線量を簡便に計算するプログラム。宇宙線の大気中輸送はLUINコードにより計算を行っており、各月の地球周辺磁場の条件において、輸送方程式を解析的に解いて大気中の線量率分布を求め、これを飛行条件(航路及び高度等)に照らして搭乗時に受ける実効線量を計算している。なお、CARIコードでは、米国放射線防護測定審議会(NCRP)の提言に従って陽子の放射線荷重係数として2を採用しており、ICRPの1990年勧告に示されている値(=5)とは異なっている。当該コードは、FAAのCivil Aerospace Medical Institute(CAMI)のホームページ上でオンライン利用できるようになっている他、コードをダウンロードしてWindowsパソコン上で利用することも可能である。

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独立行政法人 放射線医学総合研究所 企画部 広報課

Tel:043-206-3026 Fax:043-206-4062
E-mail:info@nirs.go.jp

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