無菌特殊環境 (SPF) 下で利用可能な
世界初の中性子照射システムを完成
広島・長崎の原爆、JCOの事故時などに発生した
高速中性子線の生物影響研究の進展が期待される

【概要】

独立行政法人 放射線医学総合研究所(米倉義晴理事長)基盤技術センター研究基盤技術部 今関等部長らの技術開発グループは、広島・長崎の原爆やJCOの臨界事故時にも発生した高速中性子線*1を、病原菌のいない清浄な動物飼育環境(SPF)下で照射できる世界初の中性子線発生用加速器システム(NASBEE*2)の調整を完了し、照射実験環境を確立しました。

同システムを備えた放射線医学総合研究所の低線量影響実験棟は、1999年、茨城県東海村で発生したJCO事故を機に建設が進められたもので、主として低線量放射線の生体影響に関する研究の推進とデータの蓄積を目的としています。今回完成した高速中性子線照射実験システムから発生した中性子線は、低線量影響実験棟内のSPF*3環境の照射室において実験動物に照射し、そのまま飼育観察できる構造となっており、従来から問題になっていた、飼育施設と照射施設間の動物移送によるストレスを回避できます。

今回のシステム構築によって、中性子線によって生じる生体への影響をSPF動物(特定病原菌に未感染の動物)により精査する実験が可能となり、生物の寿命や発がんなどに関わる中性子線の生物影響研究が、大きく進展することが期待されます。

【背景】

国民的な関心事である「放射線による人体への影響評価」は、主として広島、長崎の原爆被爆者や医療機器による被ばくを受けた患者の追跡調査などから次第に明らかになっています。広島、長崎の原爆やJCO事故などで発生した低線量放射線の影響評価についてもさまざまな疫学研究がなされていますが、被ばく線量の推定や交絡因子(様々な条件が相互に影響し合う因子)などの影響によって、明確な答を得ることが難しい状況となっています。特に、中性子線の人体影響については情報が極めて限られており、これに代わるモデル動物(マウス、ラット)や培養細胞を用いた高速中性子線の精度の高い影響研究が必要とされています。こうした中、中性子線以外に起因する影響を可能な限り回避した精度の高い生物実験を行うために、病原菌のいない清浄なSPF環境下での中性子線照射が可能な実験装置が求められていました。

【システムの概要と性能】

今回確立された高速中性子線照射実験システムに用いられた加速器は、コッククロフト・ワルトン型静電加速器*4と呼ばれる大電流加速器システムで、リチウムまたはベリリウム金属ターゲットに、陽子もしくは重水素を当て、0.5~2.2MeVの中性子を発生させます。本システムはオランダのHVEE社製インラインタンデム型静電加速器*5及び高出力イオン源、NECトーキン製ビーム輸送系及び、照射システムで構成されています。主な仕様は、

〇 ターゲット位置での最大加速ビーム電流 : 水素-----800μA
  重水素---600μA
〇 加速電圧 (エネルギー) 可変範囲----------0.1~2.0MV (0.2~4.0MeV)
  電圧安定度----------------400Vpp(2.0MV時)

このシステムの特徴は、高フルエンスの高速中性子線*6を、生物・物理照射室で培養細胞や線量計に照射するだけでなく、特定病原菌未感染(SPF)環境で、マウス、ラットなどの実験動物に照射できることにあります。

【システムを使った研究・実験計画】

放射線医学総合研究所では、今回完成した高速中性子線照射実験システムを、放射線防護研究センター下の研究グループを中心に活用していきます。

一例として、発達期被ばく影響研究グループでは、十分なデータの無い胎児・子供期における放射線被ばくによる発がんリスクや寿命短縮等への影響に関する情報を、動物実験によって提供するための照射実験が既に開始されています。

また、同システムは世界に例を見ないユニークな実験施設であることから、放射線医学総合研究所以外の研究機関から広く研究者の参画を求め、幅広い研究テーマへの活用を図っていきます。

(用語解説)

*1) 高速中性子線 :
一般に0.5MeV~10MeVのエネルギーを持つ中性子線のこと。

*2) NASBEE :
Neutron Exposure Accelerator System for Biological Effect Experimentの略。NASBEEシステムは、高速中性子線実験照射システムの略称として用いる。

*3) SPF :
Specific Pathogen Free の略。特定病原菌未感染。動物実験においては、目的以外の要因から異なった結果が導かれることを回避するため、SPF環境下での飼育・観察実験が求められる。

*4) コッククロフト・ワルトン型静電加速器 :
1931年CockcroftとWalton両博士によって最初に作られた加速器。交流を整流した直流高電圧でイオンを加速する。整流回路を多段式にしているのが特徴。

*5) インラインタンデム型静電加速器 :
タンデム型加速器は、通常の静電加速器が加速電圧を1回しか使わないのに対し、2回利用できる加速器である。通常、タンデム型加速器は、電圧発生部と粒子加速部が別々に接続されており、その概観は、アルファベットのTの形をしている。

*6) 高フルエンスの高速中性子線 :
単位面積当たりの粒子の数が多い高速中性子線のこと。


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独立行政法人 放射線医学総合研究所 企画部 広報課

Tel:043-206-3026 Fax:043-206-4062
E-mail:info@nirs.go.jp

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