国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構
QST病院(旧 放射線医学総合研究所病院)

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腎細胞がんに対する重粒子線治療について

記載医師 粕谷 吾朗

はじめに

腎細胞がんの原発巣に対する治療法は、手術が第一選択です。近年では手術困難な患者さんに対する低侵襲治療として、アブレーション治療[経皮的凍結療法(Cryoablation)やラジオ波焼灼術(Radiofrequency ablation: RFA)など]が、施行されるようになりました。ただしこれらのアブレーション治療は、通常は腫瘍サイズが3cm程度までの小径腎腫瘍が対象です。
手術困難でアブレーション治療が適応外となれば、インターフェロンαや分子標的薬など全身療法の適応となりますが、その治療成績は限定的です。
X線治療を中心とする放射線治療は様々な悪性腫瘍に対する有力な局所療法ですが、腎細胞がんへの放射線治療は、かつてはほとんど行われませんでした。その理由は、腎臓の正常組織が放射線に弱く治療後の腎機能低下が避けられず、また腎細胞がんの放射線に対する感受性が低く十分な治療効果が期待できない、と考えられていたからです。
重粒子線にはX線と異なる2つの特性があります。第一は物理学的特性で、腫瘍とその周囲に限局した照射が可能で、正常臓器への影響が少ないことです。第二は生物学的特性で、殺腫瘍細胞効果が高いことです。放射線に対する正常腎実質の脆弱性と腎細胞がんの低感受性という問題を、ともに解決できる特性を有する重粒子線は、腎細胞がんに適した放射線治療と考えられます。2019年8月現在では、12回照射(治療期間約3週間)を先進医療で行っています。また、適格条件を満たす一部の患者さんに対し、安全性と効果を検証する目的で4回照射(治療期間4日~1週間)の臨床試験を行っています。

重粒子線治療の適応について

1.がんであることを、生検または画像診断により確定診断されていることが必要です。
2.限局性の腎細胞がん、もしくは転移を有する場合でも全身状態によっては適応になります。

重粒子線治療が適応にならない場合について

腫瘍と腸管が近接している場合には、腸管が接している領域には十分な重粒子線照射が行えない(腸管穿孔等の生命にかかわる重度合併症が起こりうる)ため、治療困難となります。重い合併症など治療に差し障る全身状態である場合や、医師が治療困難と判断する場合にも、適応にならないことがあります。

重粒子線治療の利点について

前述のように、重粒子線は腫瘍に集中して高い線量を照射することができる性質があるため、重度の副作用発症率を低く維持しながら、高い治療効果が期待できます。

重粒子線治療の副作用について

軽微な副作用がほとんどです。皮膚色素沈着、皮下硬結を生じることがあります。腎機能の低下もごくわずかであることがほとんどです。ただし、手術を行えばその直後に透析導入となってしまうような慢性腎不全をお持ちの患者さんでは、本治療後に時間経過とともにさらに悪化することがあり、やはり透析導入となる方もいらっしゃいます。この原因は、重粒子線治療による腎臓へのダメージと、もともとの腎疾患の自然経過による悪化、のいずれも影響していると考えています。しかし重粒子線治療直後に透析導入となった方は、これまでおりません。

腎細胞がんに対する重粒子線治療の詳細

対象となる患者さん

生検または画像検査で腎細胞がんと確定診断されている症例。

腎細胞がんに対する重粒子線治療の成績

限局性/進行性腎細胞がんに対する重粒子線治療は、1997年からQST病院(旧 放射線医学総合研究所)で施行されてきました。合併症による切除不能もしくは手術拒否例、さらに手術後早期の透析導入が不可避と想定される症例が主な対象でした。1997年~2012年までは総線量72 Gy (RBE)を中心に16回照射を、また2013年~2017年までは12回照射による第I/II相試験が行われました※1, ※2。治療後の副作用について、治療前に重度な腎機能低下のない患者さんにおいては、ごく軽微な副作用で安全に施行できることが確認されています。また、進行例も含めた長期成績の報告では、5年局所制御率は94%、5年疾患特異生存率は100%、5年全生存率は89%で※1、12回照射の第I/II相試験では、局所制御率100%、疾患特異生存率100%でした※2。以上より、腎細胞がんに対する重粒子線治療は、腫瘍サイズによらない高い効果と低い合併症率が示されてきており、何らかの理由で手術ができない患者さんに対して、とても有望な治療法と考えられます。

腎細胞がんに対する重粒子線治療の流れ

治療の流れ

1,初診;ご紹介病院からの資料をもとに、適格性の判定と治療の説明をします。適格性に問題がなければ、準備入院と治療の日程についてご説明します。
2,準備入院(初診から数日~);原則入院で準備を行います。各種画像検査および腎臓の腫瘍周囲の腎実質に金属マーカーを刺入します。また、患者さんの体型にあわせた熱可塑性樹脂による固定具を作製します。その後、固定具を装着した状態で治療計画CTを撮影します。その後、改めて治療内容についてご説明のうえ、よろしければ同意書にサインをいただきます。(※署名後のキャンセルも可能です。)
3,治療開始; 入院・通院いずれも可能です。治療は通常、週4回(火、水、木、金)行ないます。
照射中は痛みや熱感などの刺激を伴いません。照射室内の治療台に乗り、担当技師による位置合わせが始まります。通常15分程度の位置合わせが終わると、照射開始の声がかかります。照射は3-4分で終了します。

線量分布と治療経過のご紹介

以下が当院で実際に治療された患者さん(左腎臓の腎細胞がん)の治療前画像と線量分布の一例です。通常は背中から2~3門照射を行います。また、治療後の腫瘍の変化を合わせて提示します。重粒子線治療後の典型的な経過は、腫瘍がゆっくりと縮小し内部が壊死していきます。
この患者さんは、もともと右腎臓が委縮しており、手術(左腎臓摘除術)を行えば早期の透析導入は免れないと考えられていました。現在、重粒子線治療後5年以上が経過していますが、照射した腎細胞がんは制御され、転移もなく、腎機能には大きな低下なく、その他の副作用も認められません。

線量分布と治療経過

文献

※1 Kasuya G et al. Updated long-term outcomes after carbon-ion radiotherapy for primary renal cell carcinoma. Cancer science, 2018;109:2873-2880.
※2 Kasuya G et al. Prospective clinical trial of 12-fraction carbon-ion radiotherapy for primary renal cell carcinoma. Oncotarget, 2019;10: 76-81.

連絡先

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