国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構
QST病院(旧 放射線医学総合研究所病院)

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食道がんに対する重粒子線治療について

記載医師 磯崎 由佳

はじめに

当院の食道がんに対する重粒子線治療は、大きく分けて以下の二つがあります。
  ①粘膜下層浸潤食道がん(ステージI)に対する根治照射
  ② ステージII、IIIに対する術前照射
①は先進医療、②は臨床試験として行っています。

粘膜下層浸潤食道がん(ステージI)の重粒子線治療

最近、内視鏡検査の診断技術の進歩に伴い、より早期に診断される食道がんの割合が増えています。がんの深さが粘膜内あるいは粘膜下層にとどまる表在がんでは壁深達度によりリンパ節転移の頻度が大きく異なります。粘膜下層に浸潤する病変ではリンパ節転移のリスクが高くなり、局所治療である内視鏡的切除の適応には限界があり、主に手術または化学放射線療法が行われます。手術では表在がんであってもリンパ節転移のリスクが少なくないものに対しては進行がんに準じてリンパ節郭清が行われます。我が国の全国食道がん登録調査報告書によれば、臨床病期 I期の3年生存率は85.0%(手術を受けた人の85.0%が3年間生存)です。しかし、開胸・開腹を伴う食道がんの手術は侵襲が大きく、術後合併症も少なくありません。一方、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)のステージI食道がんに対する化学放射線療法の第II相試験では2年生存率93%と良好な結果が報告されていて、現在化学放射線療法と切除手術との比較試験が行われています。しかし、化学放射線療法でがんが消えたようにみえてもその後がんが再発することが少なくありません。また、化学療法と放射線療法を併用することで白血球減少、肺臓炎、心嚢水貯留等の副作用も増加します。
重粒子線治療は放射線治療のひとつですが、通常用いられるX線と比べ、高度な線量集中性(低い副作用)と高い殺腫瘍効果(高い治療効果)という特長をもつ放射線治療です。QST病院(旧 放射線医学総合研究所病院)では、手術が可能なT1b−T3の食道がんに対して2週間8回の重粒子照射終了から4−8週後に手術を行うという臨床試験を行いました。その結果、これまで重粒子線治療に伴う高度の副作用は認めていません。また、線量が33.6 Gy(RBE)または35.2 Gy(RBE)で治療した7名のT1b、T2の患者さんの内、6名では摘出された食道に増殖しうる(生き残っている)と判断されたがん細胞は認められませんでした。残る1名も増殖しうると判断されたがん細胞の割合ががん全体の3分の1以下となっていました。腫瘍の深さが比較的浅いT1b、T2では線量増加により高率に組織学的CR(がんの消失)が得られるようになりました。このような結果から、私たちはT1b I期食道がんに対して重粒子線が有効であると判断し、本治療(根治治療)を開始いたしました※1
2008年3月から2018年10月までの間に当院でこの治療を施行したのは38人です。初めは43.2Gy(RBE)/12回/3週間より開始し、高度の副作用が発生しないことを確認しながら線量を増加して、現在は50.4Gy(RBE)/12回で治療を行っています。全体の3年、5年生存率はそれぞれ86%、81%で、手術と比較し、遜色のない結果になっています。また、この治療は、手術や抗がん剤治療ができない方々も受けられる治療です。がん以外の元々の持病で亡くなられた方々を除いた補正生存率は5年91%であり、手術をも上回る良好な成績です(2019年日本食道学会で報告)。
副作用は急性期の食道炎は必ず認めますが、重篤な心臓や肺の合併症は認めておらず、比較的副作用発生率の少ない治療であると言えます。
上記より、重粒子線治療は手術や抗がん剤治療ができない方々も受けられる、副作用が低率である上、高い有効性を期待できる治療と考えられます。

ステージII、IIIに対する術前照射

ステージII、IIIの切除可能な食道がんに対する治療は、外科的切除術が最も根治性が高く標準的治療とされています。我が国ではシスプラチン と5-FUを用いた術前化学療法が標準的治療とみなされるようになっています。しかし、我が国の全国食道がん登録調査報告書によれば、このステージで切除術を受けた患者さんの5年生存率(手術を受けた人が5年後に生存している割合)は55.9%で、臨床病期別の5年生存率はステージII、IIIがそれぞれ62.7%、41.2%と決して満足すべき数字ではありません。
化学放射線療法は手術を希望しない患者さんや手術に適さない患者さんでは標準的治療として位置づけられています。しかし、化学放射線療法で一旦消えたようにみえたがんが再び明らかになることも少なくありません。また、化学放射線療法では放射線単独治療に比較して有害事象として急性期の血液毒性や消化器毒性、遅発性の心肺毒性がより高頻度にみられます。JCOGによるT4を除くステージII、IIIの扁平上皮がんに対する化学放射線療法では、シスプラチン+5-FU 2コースと60Gy/30回の放射線治療の同時併用で5年全生存率は37%でした。76人のうち12人は腫瘍の残存または再発のため救済手術を受け、外科切除の成績を上回る成績ではありませんでした。
当院では、2012年から術前化学療法併用(5-FU+シスプラチン)重粒子線治療の臨床試験を開始しています。現在も登録中であり、千葉大学医学部附属病院食道胃腸外科などの施設のご協力のもと、試験を行っています。

治療の適応について

1.がんであることを、生検により診断されていることが必要です。MRIやCT/PETなど画像のみによる診断では適応になりません。
2.限局性の食道がんの方が対象となります。 他臓器に転移病変のある患者さんは適応になりません。また、T4(周囲臓器に浸潤している)食道がんの方も適応にはなりません。

治療が適応にならない場合について

上記のように生検されていない場合や転移病変を有する場合。また、重い合併症など治療に差し障る全身状態である場合や、医師が治療困難と判断する場合にも、適応にならないことがあります。

重粒子線治療の利点について

前述のように、重粒子線は腫瘍に集中して高い線量を照射することができる性質があるため、重度の副作用発症率を低く維持しながら、高い治療効果が期待できます。

食道がんにおける重粒子線治療の副作用について

照射期間中から出現する典型的な副作用に、食道炎があります。嚥下する時の痛みが特徴で、中には食事摂取が困難になる場合があります。必要に応じて点滴加療を行います。痛みは治療終了後~1週間がピークで、徐々に軽快していきます。また、食道穿孔や肺炎、胸水、心嚢水(心臓の周りの水)貯留、甲状腺機能低下症などを引き起こす可能性はありますが、極めて稀であり、現在のところ、重篤なこれらの合併症は起きていません。

食道がんに対する重粒子線治療のながれ

1,初診;ご紹介病院からの資料をもとに、適格性の判定と治療の説明をします。
2,外来2回目;内視鏡でご病気の箇所にクリッピングを行います。また、必要に応じて、検査を追加します。
3,外来3回目;患者さんの体型にあわせた熱可塑性樹脂による固定具を作製します。その後、固定具を装着した状態で治療計画CTを撮影します。その後、改めて治療内容についてご説明のうえ、よろしければ同意書にサインをいただきます。(※署名後のキャンセルも可能です。)
4,治療開始; 基本的には入院していただきます。ステージIの場合は、治療回数は12回です。治療は通常、週4回(火、水、木、金)行われますので、祭日等がなければ3週間で終了となります。ステージII,IIIの臨床試験の場合は、抗がん剤を併用しながらの治療になります。治療予定は2週間です。

ステージI
ステージII, III

線量分布のご紹介

以下が当院で実際に治療された患者さんの線量分布です。12回照射では、1日1方向ずつ、前後2方向から照射します。

線量分布の紹介

症例のご紹介

以下が重粒子線と化学療法併用の術前照射された患者さんの内視鏡画像です。
もともとはT3(治療前の内視鏡)でしたが、重粒子線と化学療法を行い、内視鏡上、がんは消失(治療後)しました。その後、手術で切除した食道には病理学的にもがんの遺残は認められませんでした。

症例の紹介

文献

※1 Akutsu Y, Yasuda S, Nagata M, et.al. A phase I/II clinical trial of preoperative short-course carbon-ion radiotherapy for patients with squamous cell carcinoma of the esophagus. J Surg Oncol. 2012 Jun 15;105(8):750-5.
2. 磯崎由佳、安田茂雄、阿久津泰典他:T1b胸部食道扁平上皮癌に対する重粒子線治療の安全性と有効性の検討 第73回日本食道学会学術集会

連絡先

連絡先QST病院 地域医療連携室
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