国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構
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婦人科腫瘍に対する重粒子線治療について

記載医師 小此木 範之

はじめに

婦人科腫瘍には子宮頸がんや子宮体がん、卵巣がん、腟(ちつ)がん、外陰(がいいん)がん等があります。それぞれの病気により性質が異なり、また、病期(ステージ)によって、お勧めされる治療方針が異なってきます。当院では、重粒子線治療装置を導入する前から婦人科腫瘍に対する放射線治療を積極的に行っており、豊富な診療実績があります。重粒子線治療についても多くの臨床試験を行い、現在は先進医療として継続しております。ここでは、婦人科腫瘍に対する重粒子線治療についてご説明致します。

婦人科腫瘍に対する重粒子線治療について

婦人科腫瘍の中で重粒子線治療の適応となっているのは、子宮頸がん、子宮体がん、そして腟、外陰、子宮原発の悪性黒色腫(メラノーマ)です。標準的な放射線治療では根治が難しい症例を中心に治療を行っています。尚、卵巣がんについては、手術療法や化学療法が標準的治療であり、重粒子線治療の適応はありません(ただし、孤立性の転移再発の場合、重粒子線治療の適応になる可能性があります。詳しくは「転移性腫瘍に対する重粒子線治療」をご覧ください)。

婦人科がんへの重粒子線治療が先進医療として行われているのは、以下の場合です。

疾患名適応
1局所進行子宮頸がん臨床病期(FIGO)Ⅱ-ⅣA期の子宮頸部腺がんまたは巨大(6 cm以上)扁平上皮がん
2子宮体がん合併症等で外科切除不能もしくは手術拒否症例の臨床病期Ⅰ-ⅣA期の原発性子宮体がん
3婦人科領域悪性黒色腫限局性婦人科領域悪性黒色腫


当院では子宮がんに対する一般の放射線治療も行っています。画像誘導小線源治療と呼ばれる、「患者さん毎に、腫瘍の広がりに合わせて治療する腔内照射」を、本邦でいち早く導入しており、良好な成績をあげています。詳しくは、「子宮がんの放射線治療について」をご覧ください。

子宮がんの放射線治療について

1.子宮頸がん
重粒子線治療の適応になるのは、がんが子宮をこえて広がっており(II期以上)、遠隔転移がない方となります。扁平上皮がんであれば、がんの大きさが6 cm以上であることが条件です。腺がんの場合は、大きさによる制限はありません。ただし、子宮頸がんに対して、既に手術や放射線治療を受けたことのある方は重粒子線治療の対象となりません。

1-1. 子宮頸部扁平上皮がん
子宮頸がんは、がんが子宮をこえて広がっていると、手術でがんを完全に取り除くことが難しくなります。特に子宮傍組織浸潤と呼ばれる、子宮の周囲の組織にがんが広がっている場合は、化学放射線治療(放射線治療と抗がん剤による治療)が標準的治療となります。国内で行われた多施設共同前向き試験で、化学放射線治療の安全性と有効性が確認されています※1。しかし、腫瘍の大きさが大きくなるにつれ、治療成績が悪くなることも明らかになりました。
近年では、画像誘導小線源治療と呼ばれる治療方法が可能な施設が増えてきており、進行子宮頸がんにも有効であることが報告され始めています。ただ、巨大な腫瘍や、偏在性・不整形(いびつな形)にひろがる子宮頸がんの治療では、組織内照射/組織内照射併用腔内照射※2などの練度の高い小線源治療が必要となりますが、この手法はまだ一部の施設においてのみ施行可能であり、広く普及した治療とは言えないのが実情です。これらの状況の中で、子宮頸部扁平上皮がんに対する重粒子線治療では、6 cmを超える巨大腫瘍において、5年局所制御率70%と良好な成績が示されました※3

線量分布図
図1 子宮頸部扁平上皮がんに対する重粒子線治療の線量分布図

放射線がどの範囲にどの程度当たるかを示した図を、線量分布図と呼びます。子宮頸がんに対する重粒子線治療は週4回(原則火曜日から金曜日)で、20回、5週間の治療となります。図1の様に(A)→(B)→(C)と、がんの縮小に合わせて、段階的に重粒子線が当たる範囲を調節することで、腫瘍に十分に重粒子線を当てつつ、周囲の臓器へのダメージを減らします。黄色い矢印は重粒子線が照射される方向を示しています。

治療前後のMRI画像
図2 子宮頸がんのMRI画像 治療前と重粒子線治療6か月後

子宮頸がんに対する重粒子線治療の効果を図2に示します。左側が重粒子線治療前のMRI画像です。黄色い三角に囲まれている部分が子宮頸がんです。右側が治療後6か月に撮影されたMRI画像です。治療前に見られた子宮頸がんが消失しています。

1-2. 子宮頸部腺がん
子宮頸がんの中で、腺がんと呼ばれるタイプでは、扁平上皮がんに比べて放射線治療の成績が悪いことが報告されています。II-IVA期の子宮頸部腺がんに対する標準的放射線治療の5年全生存率は0-36%、5年局所制御率は22-58%と報告されています※4-8。近年、子宮頸がんの放射線治療において、画像誘導小線源治療が行われるようになり、子宮頸部扁平上皮がんについてはその有効性が報告されています。しかし、子宮頸部腺がんについては十分な報告がなく、画像誘導小線源治療を受けた患者でも、子宮頸部腺がんは予後不良であることが指摘されています※9,10。これらの状況の中で、子宮頸部腺がんに対する重粒子線治療では、重粒子線治療単独で5年局所制御率55%、5年全生存率38%であり※11、シスプラチン同時併用重粒子線治療では、2年局所制御率71%、2年全生存率88%と、良好な成績が報告されています※12

2. 子宮体がん
遠隔転移がなく、手術ができない/手術を希望されない方が放射線治療・重粒子線治療の対象となります。子宮体がんに対して、既に手術や放射線治療を受けたことのある方は対象となりません。
子宮体がんは、基本的に腺がんであり、放射線治療の効果が劣ると考えられています。また、手術の際にリンパ節郭清(リンパ節を摘出し、がんがリンパ節に転移していないかの確認)を行うことで、適切な術後治療につながると考えられています。そのため、放射線治療が適応になるのは、手術ができない/手術を希望されない方となります。早期の子宮体がんについては、放射線治療で良好な治療成績が報告されています※13が、腫瘍が子宮をこえて広がる場合、放射線治療での根治は難しくなります。子宮体がんに対する重粒子線治療では、III期の症例を含んだ手術非適応の子宮体がんに対して、5年局所制御率86%、5年全生存率68%と、良好な成績が得られております※14

3.婦人科領域悪性黒色腫
外陰、腟、子宮にできた悪性黒色腫(メラノーマとも呼ばれます)で、遠隔転移のない方が重粒子線治療の対象となります(ただし、子宮原発で鼠径リンパ節のみの遠隔転移であれば、重粒子線治療の対象となります)。手術後の再発の方でも治療できる可能性があります。
悪性黒色腫は、皮膚原発と粘膜原発に大別されます。粘膜原発の悪性黒色腫は稀であり、全悪性黒色腫中の約1.6%程度と言われています※15。その粘膜原発の悪性黒色腫の中でも、外陰・腟・子宮原発の婦人科領域原発の悪性黒色腫は2割弱であり、とても稀な病態です※16
悪性黒色腫は放射線治療が効きにくいことも知られています。婦人科領域の悪性黒色腫に対する標準的な放射線治療の奏効率(治療により、腫瘍の大きさが、一時的にでも30%以上小さくなった人の割合)は20-30%程度とされ、根治は非常に難しいとされます※17。そのため、腫瘍が限局している場合、まずは手術ができるか検討されますが、腫瘍の厚みが増すにつれ、手術後の転移の割合も高くなることが知られています※18。また、婦人科領域の悪性黒色腫は、比較的ご高齢の方に発生しやすいとされる一方で、大規模な手術が必要となることが多く、手術自体が出来ないということも少なくありません。その中で、婦人科領域の悪性黒色腫に対する重粒子線治療では、手術非適応/術後再発の23症例に対し、3年局所制御率50%、3年全生存率53%と、良好な成績が報告されています※19。その後、さらに症例数を増やし37例で行った再解析において、奏効率89%、5年局所制御率44%、5年全生存率28%という結果が得られました※20。主に手術ができない患者さんを対象とする中で、手術療法と同等の成績があげられています。

おわりに

婦人科腫瘍に対する重粒子線治療では、子宮頸がん、子宮体がん、悪性黒色腫を対象とし、難治性の病態に対して確かな治療成績を上げています。また、当院では、画像誘導小線源治療や、併用化学療法を含め、婦人科腫瘍に対する標準的放射線治療を提供できる体制がありますので、適応について迷われる場合には、お気軽にお問い合わせください。

文献

※1 Toita T, et al.: J Radiat Res. 2018;59(4):469-476.
※2 Wakatsuki M, et al.: J Radiat Res. 2011;52(1):54-58.
※3 Okonogi N, et al.: Anticancer Res. 2018;38(1):457-463.
※4 Grigsby PW, et al.: Radiother Oncol. 1988;12:289-296.
※5 Eifel PJ, et al.: Cancer. 1990;65:2507-2514.
※6 Niibe Y, et al.: Jpn J Clin Oncol. 2010;40:795-799.
※7 Lea JS, et al.: Gynecol Oncol. 2002;84(1):115-119.
※8 Huang YT, et al.: Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2011;80:429-436.
※9 Minkoff D, et al.: Radiother Oncol. 2015;115(1):78-83.
※10 Kusada T, et al.: J Radiat Res. 2018;59:67-76.
※11 Wakatsuki M, et al.: Cancer. 2014;120(11):1663-1669.
※12 Okonogi N, et al.: Cancer Med. 2018;7(2):351-359.
※13 Ohkubo Y, et al: J Radiat Res. 2011;52(5):666-673.
※14 Irie D, et al.: Radiat Res. 2018;59(3):309-315.
※15 McLaughlin CC, et al.: Cancer 2005;103:1000–1007.
※16 Chang AE, et al.: Cancer 1998;83:1664–1678.
※17 Slingluff CL, et al.; Principles and Practice of Oncology. 9th edn. Philadelphia: Lippincott Williams & Wilkins; 2011. pp. 1643–1691.
※18 Trimble EL, et al.: Gynecol Oncol. 1992;45(3):254-258.
※19 Karasawa K, et al.: J Radiat Res. 2014;55(2):343-350.
※20 Murata H, et al.: Cancers (Basel). 2019;11(4). pii: E482. doi: 10.3390/cancers11040482.

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