記載医師 今井 礼子
通常の放射線治療では十分な効果が期待しにくいが重粒子線では高い効果が期待され、本治療の適応の代表とも言えるのが骨軟部腫瘍です。罹患率の低いまれな腫瘍ですが、QST病院における治療患者数は2番目に多く(表1)、これはこの疾患における重粒子線治療の有用性の表れと見なすことができます。手術が難しい場合には、必ずしも奏功率の高くない薬物療法以外に治療法がなかったため、重粒子線治療が期待され、実際にその期待に応えてきたと言えると思います。
骨軟部腫瘍における重粒子線治療の適応としては、①組織学的に肉腫と診断されている、②根治的切除非適応である、③局所療法が予後に寄与すると判断されるといったことが条件となっています。実際に治療を行った患者さんの腫瘍発生部位や組織型も多岐にわたっており、治療成績も異なっています。(表2)
2015年の重粒子線多施設共同臨床研究(J-CROS)での集計によると、種々の組織型を含む解析対象全764例の5年局所制御率(照射したところが再発しない確率)は68%で、5年生存率は65%でした。代表的な疾患については下記のようになります。
これまでの実績の中では仙骨原発の脊索腫が最も多くを占めています。QST病院で治療された188例の仙骨脊索腫に対する重粒子線治療の成績として5年局所制御率77%、5年生存率81%と良好な成績が報告されています※1。また、骨肉腫も比較的多くの症例が治療されていますが、四肢の骨肉腫は原則として適応としていないため、殆どは骨盤や脊椎周囲の体幹部の腫瘍で、根治切除ができない症例や切除は技術的に可能であるが術後の機能障害が大きいため適応にならない症例です。78例の体幹部骨肉腫の重粒子線治療成績として5年生存率33%と報告されており※2、そのほか表2に示すように軟骨肉腫や軟部組織原発の肉腫などでも良好な治療結果が得られています。重粒子線治療は切除ができない体幹部の症例が主たる対象ですので切除できた症例の成績より劣りますが、切除できず他に有効な治療法もなかった時代の症例と比べると成績は優れています。これらの実績により重粒子線治療の全対象疾患の中でも最も早く保険収載されました。
疾患名 | 期間 | 治療数 |
---|---|---|
骨軟部肉腫 | 1996/4– 2018/8 | 1212 |
疾患名 | 症例数 | 5年局所制御率(%) | 5年全生存率(%) |
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仙骨脊索腫 | 188 | 77 | 81 |
体幹部骨肉腫 | 78 | 62 | 33 |
20歳以下の体幹部骨肉腫 | 26 | 63 | 63 |
体幹部軟骨肉腫 | 73 | 53 | 53 |
体幹部軟部肉腫 | 128 | 65 | 62 |
重粒子線治療は線量集中性に優れる治療ですが、腫瘍が周囲の臓器(例えば消化管や皮膚、神経)に浸潤している様な場合や広く接している様な場合には、その臓器を避けることは困難です。治療に含まれる範囲を最小限にすることは可能ですが、その範囲に含まれる臓器に治療後暫くしてダメージが出現し症状を呈することがあります。副作用の内容、頻度は腫瘍のある場所、治療範囲によって異なります。
骨軟部腫瘍の治療では適切な方向から病巣を治療(照射)することが大変重要です。同時に腫瘍の症状として疼痛や神経障害をお持ちの患者さんも多いので、治療用固定具作成が重要な準備となります。QST病院では、360度自由な方向から重粒子線治療ができる回転ガントリーも導入されており、患者さんや病巣の状態に応じて適用を判断しています。固定具作成後、別の日に固定具を装着した状態でのCT撮影を行います。このCT画像上で治療計画(照射範囲や照射方向の設定)を行い、様々な検証を経て治療が開始になります。骨軟部腫瘍の重粒子線治療はほとんどが16回照射/4週間のスケジュールで行われます。また重粒子線治療の治療範囲を決めるために、必要に応じてMRIやPET-CTなどの画像検査を行います。
※1 Imai R et al. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2016;95(1):322-327.
※2 Matsunobu A et al. Cancer. 2012;118(18):4555-4563.
3. Mohammad O et al. Oncotarget. 2018;9(33):22976-22985.
4. Imai R et al. Anticancer Res. 2017;37(12):6959-6964.
5. Imai R et al. Cancer Med. 2018;7(9):4308-4314.