QSTは、放射線医学総合研究所(放医研)と日本原子力研究開発機構の量子ビーム部門と核融合部門が再編統合され2016年4月に発足しました。その後、 2019年4月に組織改正を行い、放射線医学総合研究所病院であった当院の名称もQST病院に変更しました。2024年4月には、これまでの部門制が廃止されたことで重粒子線治療研究部をはじめ、複数の部課室が新たにQST病院に組み込まれ、基礎・臨床の両面からの研究を強力に推進し、遂行できる組織として生まれ変わりました。
当院の大きな目標の1つとして、重粒子線がん治療の有効性を検証し、多くの疾患に対する重粒子線治療の保険収載を目指すこと、そしてこの治療技術を国内外に普及させることがあります。その実現には、最新の技術と知識をもとに最適な治療法を開発する研究を絶えず、企画し遂行しなければなりません。同時に、研究を実践できる資質を備えた人材の育成も必要です。QST病院は、このような研究開発や人材育成を遂行できる研究・教育機関として、これまで以上に前進していきたいと思います。
現在の大きな事業の一つとして、治療装置のさらなる小型化と治療効果の最大化を目的とした量子メスプロジェクトを実行中です。治療効果の最大化のために炭素イオンだけでなく、酸素イオンやヘリウムイオンなど複数のイオンを組み合わせて照射するマルチイオン照射法を開発し、臨床試験が開始されました。また、小型重粒子線加速装置、いわゆる量子メスの建設も開始されました。1993年11月に完成した世界初の医用専用重粒子線加速装置(HIMAC)は、これまでの約30年間で16,000例を超える治療を実施し、前立腺癌、頭頚部癌、膵癌、肝癌、骨軟部肉腫、など複数の疾患の保険適用に繋がる成果を生み出してきました。一方で、昨今の電力・資材をはじめとしたコスト増の大型装置への影響は強く、健全な病院経営、治療の全国展開のためには小型装置の開発は必須です。最新の照射技術を有するこの新しい小型装置、量子メスでの治療が2028年には開始予定であり、それまでに行うべき診療や研究での数々の準備をしっかりと取り組みたいと思います。
QST病院としてのもう一つの新たな取り組みは、QSTの量子科学技術研究で創出された研究成果を臨床応用へと橋渡しする研究を実践することです。がん以外の疾患に対する重粒子線治療、RI内用療法、PETイメージングなどの新規開発研究結果からQST病院外の組織・グループと共同で実施する前臨床研究、および臨床試験を慎重に、かつ強力に推進し、将来の臨床応用に展開するための基幹病院としての役割も果たしていきたいと思います。
これからも私たちは、重粒子線をさらに磨き上げるための研究を推し進め、とくに、がん克服の様々な取り組みに貢献できるよう、最新の治療法を確立するための臨床研究を推進してまいります。また、千葉県のがん連携病院(高度先進医療機関)として地域医療にも貢献していきたいと思います。診療、研究、教育を通じて連携する機関とは研究成果を早く、広く普及するための活動を促進し、安全で専門性の高い医療、そして、何よりも患者さん主体の良質な医療の提供を目指していきますので、引き続きご支援、ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。
2024年4月
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
QST病院長 石川 仁