分子神経イメージング研究プログラム|MONI

脳機能イメージング研究部

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PETによる薬の治験
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探索的IND試験Exploratory IND

Exploratory IND (investigational new drug:治験薬) Study

米国FDAの出したガイダンスにより以下のように定義された(2006年1月)。
「人を対象とする限定的な初期の試験で仮説を検証し、一般化可能な知識を生成することを目的とする行為」

  1. マイクロドース臨床試験
・ 薬物動態学に関する重要情報を提供する
・ 色々なイメージング技術を使用して、製品の生体内分布の特徴を探索する
・ 薬物動態、薬力学的特性に基づいてヒトにおいて特定の治療標的と相互に作用するように設計された候補群から最も有望な製品を選択する
  1. 薬理学的至適用量決定のための初期臨床試験
  1. 作用機序検討用の臨床試験
・ 実験系で定義される作用機序が、ヒトにおいても同様に観察可能か決定する

早期探索臨床試験

わが国では医薬品開発支援機構より早期探索的臨床試験の実施に関する指針が出された(2007年)。
「前臨床開発の過程で,第一相試験以降の開発を進めるべき候補化合物を選択することを目的に,ヒト被験者を対象として早期の探索的な臨床試験を行う」

  1. 早期探索臨床試験1型: マイクロドース臨床試験。投与量を想定臨床用量の1/100以下 または 100μg以下で行う試験。
  2. 早期探索臨床試験2型: 準薬効用量早期探索的臨床試験 。薬効用量に近い投与量での薬物動態や薬効に関連する生物学的活性を評価するための試験。
  3. 早期探索臨床試験3型: 薬効用量早期探索的臨床試験。薬効は現れるが有害作用が現れることは期待されない用量を、健常人あるいは軽症患者に単回あるいは14日間を限度として反復投与し、薬物動態や薬物相互作用を検討するための試験。
 

マイクロドース臨床試験Microdosing Trials

「マイクロドース臨床試験」(早期探索的臨床試験の1型)とは,被験物質を,in vitro およびin vivo で得られたデータから薬理作用を発現すると計算される投与量の1/100未満,かつ,100μg/human以下の用量で単回投与する臨床試験であるが、近年のAMS(加速器質量分析法),PET(陽電子放射断層撮影法)あるいはLC/MS/MS法などの超高感度薬物測定法の発達によって初めて可能になった方法である。

マイクロドース臨床試験の目的は,医薬品臨床開発初期において薬物動態面からの開発候補化合物スクリーニングを行うことである。特にPETにおいては薬物動態学的情報と共に臓器や組織への分布の情報を得ることができ,候補化合物スクリーニングの際の重要な決定要因となる。

 

PETによる探索臨床試験Exploratory IND Using Pet

PETを治験にどのように使うのか

PETでは、薬物の標的部位であるタンパク(受容体やトランスポーター、酵素など)に特異的に結合する化合物をポジトロン核種(主に11Cまたは18F)で標識した分子プローブ(PETトレーサー)として静脈注射することにより、対象となる生体内タンパクの分布を可視化できる。

また体内に投与される分子プローブは放射能半減期が極めて短い(数分から2時間程度)ことから原理的に比放射能(単位分子当たりに標識できる放射能量)を非常に高くできるため体内に投与する化合物の量も極微量となる。これはまさにマイクロドーシングの概念とも一致するものであり、医薬品候補化合物自体を直接ポジトロン標識すればその体内分布と動態を調べる極めて有効な方法となる。
これまでも薬物の血中濃度から標的臓器内濃度を推定することは一般的に行われてきたが、近年多くの薬物トランスポーターが報告されており、体内に投与された薬物の動態は物理的な拡散だけではなくエネルギー依存的な輸送に左右されることも無視できない。さらに現在分かっていないトランスポーターの存在も考慮すれば、薬物ごとの標的臓器(より精密には標的生体分子)における評価をPETを用いて人間で行うことは極めて重要であり、これらのデータをデータベース化すれば血中濃度からの臓器内濃度や動態の推定をより確度の高いものとでき、さらに薬物の合理的な用量設定や投与方法の決定づける客観的指標を与えることができる。

放医研ではどのように実践しているか

当研究グループではPETを用いた治験として、正常被検者または患者による抗精神病薬および抗うつ薬の用量設定試験を行ってきた。これらの薬剤は、その標的分子が明確であり選択性の高いリガンドが実用化されている。抗精神病薬はドーパミンD2受容体を、抗うつ薬はセロトニントランスポーターをその主たる作用点とするが、服用した状態で各々の作用点に選択的に結合するPETリガンドを利用することで、薬物の競合阻害による分子プローブ結合抑制の程度(薬物による受容体あるいはトランスポーター占有率)が分かり、作用点における薬物効果を評価できる。この方法を利用して、これまでに実施した臨床試験の概要は以下の通り。

 

●治験届けを行って実施した臨床治験
デュロキセチン(duloxetine)の用量設定 【Phase I 臨床治験】
正常者を対象とした第I相臨床試験として抗うつ薬塩酸デュロキセチンの用量探索試験を施行した。セロトニントランスポーターの選択的PETプローブ[11C]DASBを用いたPETによるデュロキセチンのセロトニントランスポーター占有率測定を行ったところ、治療効果の発現に必要とされるセロトニントランスポーターの80%の占有率を達成するためには40 mg以上の投与が必要であることがわかった。またデュロキセチン服用後のセロトニントランスポーター占有率の経時変化から60 mgであれば1日1回投与で十分な占有率を維持できることが確認された。デュロキセチンの血中濃度の半減期と占有率の経時変化には大きな乖離が認められた。PETを用いた薬物の評価は少数例で用量設定と動態を精度よく予想でき、治験に関わる期間の短縮および、より適切な投与量、投与法の設定が可能となる。
Psychopharmacology, 2006 プレス発表

パリペリドン除放剤(paliperidone ER)の用量設定 【Phase II 臨床治験】
新規抗精神病薬であるパリペリドン徐放剤の用量探索試験をPETを用いた第II相臨床試験として実施した。少人数の統合失調症患者に抗精神病薬であるパリペリドン徐放化製剤を投与して [11C]FLB457を用いたPETによりドーパミンD2受容体占有率を測定し至適用量の検討を行った。臨床試験の段階でPETを用いた初めての例となった。
Psychopharmacology, 2008

 

●臨床研究
スルトプリド(sultopride)の認可用量検証
従来から使用されている定型抗精神病薬であるスルトプリドは垂体外路症状といった副作用が出やすい薬剤として知られていた。そこで、ドーパミンD2受容体の選択的PETプローブ[11C]FLB457を用いたPETによる大脳皮質D2受容体占有率を測定したところ臨床用量の10分の1の用量でも十分に高い受容体占有率が認められた。スルトプリドと同じベンザマイド系に属するスルピリドと比較した場合,現在の臨床用量設定が一日あたり300-1200mgと同じであるにもかかわらず占有率はまったく異なり、抗精神病作用を発現する70-80%の至適占有率を示すためにはスルピリドでは1000-1700mgが必要なのに対し、スルトプリドでは25-35mgで十分な占有率が得られることがわかった。
Int J Neuropsychopharmacol, 2006 プレス発表

 

参考文献References

「マイクロドーズ臨床試験 理論と実践 −新たな創薬開発ツールの活用に向けて−」
杉山雄一・栗原千絵子 編著, 株式会社じほう, 東京, 2007

「特集/薬物動態の新しい潮流 3.薬効と動態-中枢作用薬PETによる評価」
高野晴成・森本卓哉・伊藤浩・須原哲也 著, 臨床薬理, p145-148, 2007

「脳の形態と機能 −画像医学の進歩−」
福田寛 編著, 振興医学出版社, 東京, p89-104, 2005
(第7章 統合失調症、うつ病の神経伝達物質受容体イメージング / ドロンベコフ タラント ケネショウィッチ・安野史彦・須原哲也 著)

 
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