腫瘍部位の検出に有効な前臨床用MRI造影剤の実用化
MRIのコントラストを飛躍的に高めるナノ粒子を作成

2011年 7月 1日
公立大学法人大阪府立大学(理事長:奥野武俊)
大学院工学研究科 河野 健司教授
独立行政法人放射線医学総合研究所(理事長:米倉義晴)
分子イメージング研究センター 青木伊知男チームリーダー
株式会社ヒュギエイアバイオサイエンス社(代表取締役 五十嵐 貢一)
DSファーマバイオメディカル株式会社(代表取締役社長 竹根 幸生)

本研究成果のポイント

公立大学法人大阪府立大学(以下「大阪府立大」)と独立行政法人放射線医学総合研究所(以下「放医研」)の共同出願による技術である「常磁性金属※3 含有ポリアミドアミンデンドロン脂質※4 (特願2008-121573)」を用いた新規ナノ粒子型MRI用造影剤が、株式会社ヒュギエイアバイオサイエンス社(以下「ヒュギエイアバイオサイエンス社」)より研究用試薬として実用化され、7月1日よりDSファーマバイオメディカル株式会社(以下「DSファーマバイオメディカル(株)」)から発売開始されます。本試薬(試薬名:Gadolisome)は小動物を対象とする、ガドリニウム(以下「Gd」)※5 キレート造影剤※6 を高濃度に含有した前臨床研究用MRI造影剤です。

本特許技術は、大阪府立大学 大学院工学研究科 河野 健司教授および放医研分子イメージング研究センター複合分子イメージング研究チーム 青木 伊知男チームリーダーらの共同研究による研究成果です。

平均粒子径100ナノメートルのナノ粒子(リポソーム※7 )である本試薬は、がん組織中の透過性が強まった血管から漏れやすい性質(EPR効果※8 )による腫瘍への集積性も有しているので、がんのモデルマウスにおける腫瘍検出イメージングにも利用できます。

研究の背景と目的

現在、MRIの国内での稼働台数は5000台近くに達するとされ、多くの病院における診断用の断層イメージングとして、不可欠なものになっています。その際、診断画像の濃淡のコントラストを高めるために常磁性金属を使用したMRI造影剤が使用されていますが、常磁性金属を目的とする患部にいかに多く集めるかが、診断の成否を分ける鍵となります。

しかし、現在使用されているガドリニウム(Gd)キレート造影剤の多くは、1分子につき1つのGd原子しかもっておらず、また特定の標的にのみ集まる造影剤は実用化されていませんので、MRIでコントラストを高めるためには、より多くの造影剤を投与する必要がありました。

このため、高感度かつ特定の標的に多く集積するという2つの性質を併せ持つ造影剤が開発できれば、MRIのコントラストを飛躍的に高め、なおかつ副作用の少ない安全な診断ができると考えられます。そこで、ポリアミドアミンデンドロン脂質を基本構造にして、樹状に多数の常磁性金属を結合可能な化合物を開発し、それをナノ粒子であるリポソームに取り入れてMRI用の造影剤として開発したところ、造影効果を飛躍的に高めることができました。

常磁性金属含有ポリアミドアミンデンドロン脂質とは

試薬に含まれるポリアミドアミンデンドロン脂質には常磁性金属と結合することができる末端に遊離アミノ基を1分子当たり3から8程度持っています(図1 左)。


図1: デンドロン脂質 左:ポリアミドアミンデンドロン脂質の例。「リンゴの樹」のような枝分かれになっているのが分かる。この枝分かれの部分は合成を繰り返すことにより増やすことができる。右:ポリアミドアミンデンドロン脂質にGdを結合させたイメージ図

図2: リポソーム表面に造影剤を多数結合させた新規ナノ粒子型MRI用造影剤

本試薬に含まれる常磁性金属含有ポリアミドアミンデンドロン脂質(図1左)は、1分子に多数のGdを結合した状態で(図1右)、リポソームの表面に結合されます(図2)。使用されるリポソームは平均粒子径100ナノメートルのナノ粒子で、腫瘍血管から漏出することができるサイズであるため、腫瘍への集積(EPR効果※8 による受動的集積)が期待できます。

(Gd含有ポリアミドアミンデンドロン脂質の特徴を示す実験例)

腫瘍集積性を示す実験として、腫瘍を移植して10日ほど経ったBalb/cヌードマウス(9-12週齢)に尾静脈から、Gd含有ポリアミドアミンデンドロン脂質を含んだ平均直径110nmのリポソームを静脈内投与します。それから108時間後のMRI(7T実験用水平型MRIを使用)を調べたところ、明らかに、腫瘍部位のMR信号は時間とともに増加しました。これは腫瘍部位に存在するリポソームの量が時間とともに増加したことを表しています(図3)。一方、正常な血管からは漏れ出すことがないため、付近の筋組織では、大きな信号上昇は生じておらず、とてもコントラストの良い画像が得られています。またリポソームが腫瘍内部では均一に分布しないことも明らかにしました。この腫瘍の微細構造の描出能は、MRIの高い空間分解能と本造影剤の高い造影能の2つの特徴から得られるものです。例えば、膵臓がんなど、難治性といわれる腫瘍の中には、投与した薬が腫瘍の全体に行き渡らないといわれています。本剤は、そうした難治性腫瘍に対して、なぜ治療効果がないかをイメージングで解析するために有用と考えられます。

腫瘍への集積を示す実験結果として、サイズの異なったリポソームを投与した動物の腫瘍の信号強度を投与後8時間まで示します(図4)。このグラフからは、数時間以内に速やかに腫瘍に集積して腫瘍の部位が明るくなっているのが分かるとともに、8時間後でも明るさを失わず、血液中で長く存在していることがわかります。この特徴は、薬剤がより腫瘍に集まり、長時間作用するために重要な要素です。

図3: 腫瘍に集まるナノ粒子

MRIの測定条件:条件TE = 9.57 ms, TR = 300 ms, FOV = 44.8 × 44.8 mm2, スライス厚 = 1.0 mm,マトリックスサイズ = 256 × 256, NA = 4.


図4: リポソーム投与後の腫瘍の信号変化

本試薬の特徴

本試薬の将来的展開

本試薬は世界初のリポソームを利用した研究用MRI造影剤であり、今後ラット・マウス実験用コンパクトMRI等が低価格化による世界的な普及に伴い、販売増加を見込んでいます(2016年世界で500台以上稼動と予測)。なお、本試薬の販売予定価格は98,000円(0.5mL)で、マウス2-5匹分での使用が可能です。

尚、臨床への応用も検討されています。リポソームや造影剤そのものは、すでに臨床で幅広く使用されています。今後、新規素材であるデンドロン脂質を含む造影剤が長時間体内を循環した際に、どのような毒性が生じるかという確認が必要で、これは、今後の前臨床研究を通じて明らかにされます。ナノ粒子を用いたイメージング技術を使うと、毒性の原因となる臓器への分布を連続的に解析することが可能で、基礎研究から臨床への迅速な橋渡しが可能になると期待できます。

用語解説

※1 MRI

核磁気共鳴イメージングの略。静磁場中で生体に含まれる水分子の水素原子核に、FM帯の電波を加えることで共鳴させ、その信号から断層画像を作成する画像診断法の一種。電離放射線を使用しないため、完全に侵襲の無い検査が可能で、日本の病院などに4000台以上存在し、近年は前臨床研究用として、研究機関や企業への普及が始まっている。超電導磁石を用いた高磁場装置(臨床用1~3テスラ、前臨床用4.7~11.7テスラ)と永久磁石を用いた低~中磁場装置(臨床用0.2~0.5テスラ、前臨床用0.5~2テスラ)とがある。

※2 造影剤(MRI用)

MRI画像の濃淡のコントラストを強調させる目的で使用される薬剤。MRI用造影剤としては、常磁性金属であるガドリニウムを、毒性を下げるためのキレート剤に内包したものが、信号増強をもたらす陽性造影剤として静脈投与可能な診断用に使用されている。他に超常磁性という磁性を持つ酸化鉄微粒子を糖の一種でコーティングしたものもある。経口薬としては、鉄イオンやマンガンイオン系の造影剤も使用されている。

※3 常磁性金属

外部磁場が無いときには磁化を持たず、磁場を印加するとその方向に弱く磁化する磁性を指す「常磁性」の性質を持つ金属。具体的には第1遷移金属イオン(鉄イオン、マンガンイオンなど)、ランタノイドイオン(例えばガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)など)。

※4 ポリアミドアミンデンドロン脂質

多数の遊離アミノ基を末端に有する脂質。 ポリアミドアミンデンドロン脂質は、第2級アミンR1R2NHに、アクリル酸エステルを反応させるマイケル付加反応と、ジアミノアルカンを用いるエステルアミド交換反応を繰り返す方法で製造される。

※5 ガドリニウム

原子番号64番目の元素。希土類元素の一つ。

※6 ガドリニウムキレート造影剤

ガドリニウム(以下「Gd」)を、カニがはさみで物を挟み込むような形で保持させた造影剤。

Gdキレート造影剤としては、Gdがジエチレントリアミン5酢酸(DTPA)に保持されたガドペンテト酸(GdDTPA)(米国特許第4647447号)が有名であるが、このような化合物は、構造上1分子につき1つのGd原子しかもつことができない。また、Gdキレート造影剤は、Gd周辺のプロトンの縦緩和時間(T1)短縮効果を示し、信号が白くなる陽性造影効果を持つことが知られている。Gdキレート造影剤は国内外の臨床で多く使用されている。

※7 リポソーム

脂質を使った人工膜で作られた、カプセルのような中が空洞の容器。油に溶けやすい部分と水に溶けやすい部分を持つ脂質が二重に重なって膜を作ることにより、容器にDNAやタンパク質などを内蔵させることができる。細胞膜に近い性質を持つことから、細胞と融合することができる。細胞と融合させることにより、リポソームが内蔵している分子を細胞内に導入する実験に利用することができる。素材としてのリポソーム(PEG化リポソーム)は、抗がん剤ドキソルビシンを内包し、すでに海外では臨床で使用され、最近、国内でも販売が始まった。

※8 EPR効果

EPRはEnhanced Permeability and Retention(血管透過性・滞留性亢進)の略。腫瘍組織では、正常組織に比べ血管の透過性が著しく強まっているため、血管から高分子や微粒子が腫瘍組織へ漏れ出しやすい。また、腫瘍組織では、組織から組織液を取り除く働きを持つリンパ系が発達していないため、腫瘍組織に到達した物質は除かれることなく蓄積してしまう。このような特性をEPR効果といい、がん組織に対する標的化を行ううえで重要な因子となっている(日本薬学会・用語解説を改変)。

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